令和6年度介護報酬改定の効果検証(令和7年度調査)テクノロジー導入の限界と現場の本音【介護職人が解説】

介護職人ラボ生産性向上
目次

介護現場の「生産性向上」は、単なる効率化の話ではない

介護現場の生産性向上とは、介護職員の仕事を機械に置き換える話だけではありません。介護テクノロジー、ICT、介護助手などを活用しながら、介護職員が働き続けやすい職場環境をどう作るかという話です。

このテーマは、介護職員にも、介護事業所の経営者にも関係します。現場で働く職員にとっては、身体的な負担や記録業務、残業、有給休暇の取りやすさに関わる話です。経営者や管理者にとっては、人手不足の中で職員をどう守り、事業所をどう運営していくかに関わる話です。

ただし、注意しなければいけないのは、今回の厚生労働省関連の調査報告書は「今すぐ現場のルールが変わる」という資料ではないということです。介護ロボットやICTなどの導入状況、令和6年度介護報酬改定後の実態、加算を取得している事業所の状況などを調査した資料であり、今後の制度や現場づくりを考えるための参考情報として読む必要があります。

また、生産性向上という言葉だけを見ると、「少ない人数で同じ仕事を回す」「職員を減らす」という印象を持つ人もいるかもしれません。しかし、介護現場で本当に大事なのは、職員を減らすことではなく、職員の負担を減らし、利用者に向き合える時間と余裕をどう作るかです。

参考:令和 6 年度介護報酬改定の効果検証及び調査研究に係る調査(令和 7 年度調査)

この資料は何を調べたものか

この資料は、介護現場におけるテクノロジーの導入や活用状況、それによる効果、令和6年度介護報酬改定後の加算や人員配置に関する実態を調べた報告書です。

調査対象は、特定の介護サービスだけではありません。訪問介護、通所介護、短期入所、特定施設、グループホーム、介護老人福祉施設、介護老人保健施設、居宅介護支援など、幅広い介護保険サービスが対象になっています。

そのため、この資料はデイサービスだけの話でも、入所施設だけの話でもありません。介護業界全体で、テクノロジーやICTをどう活用し、働きやすい職場環境をどう作るかを考えるための資料です。

ただ、実際に中身を見ていくと、見守り機器や夜勤体制など、入所系サービスの方が関係しやすい内容も多くあります。一方で、通所系や訪問系では、同じようにテクノロジーを入れても効果が出にくい部分があります。

ここは、記事として扱うときにかなり大事な視点です。介護サービス全体に関係するテーマではありますが、すべてのサービスに同じように当てはまる話ではありません。

関係するのは介護職員と介護事業所の両方

この話は、介護職員だけの話でも、経営者だけの話でもありません。

介護職員にとっては、テクノロジーの導入によって、記録業務が減るのか、身体的な介助の負担が減るのか、逆に新しい機器を覚える負担が増えるのかという問題があります。便利になる部分がある一方で、使いこなすまでの負担や、現場に合わない機器を入れたときの混乱もあります。

経営者や管理者にとっては、職員の負担を減らすために何へ投資するのか、加算をどう活用するのか、現場に本当に合う仕組みをどう作るのかという問題があります。機器を入れるだけで生産性が上がるわけではありません。職員が使える形に落とし込まなければ、むしろ現場の負担が増えることもあります。

介護事業所は、一般企業のように価格を自由に上げて利益を増やせる仕事ではありません。介護保険制度の中で決められた報酬をもとに運営しているため、人件費や設備投資には限界があります。その中で、職員の負担軽減と経営の継続を両立しなければいけません。

だからこそ、生産性向上は「現場が頑張ればいい」という話でも、「経営者が機械を買えばいい」という話でもありません。現場と経営の両方から見なければ、実態に合わない話になってしまいます。

今すぐ制度が変わる話ではなく、今後の現場づくりに関わる話

この資料を読むときは、「この調査結果によって、すぐに介護現場の働き方が変わる」と考えない方がいいです。

今回の資料は、あくまで調査研究の報告書です。介護テクノロジーの活用状況や、生産性向上推進体制加算を算定している施設・事業所の状況などを調べ、今後の方策を検討するための材料です。

ただし、こうした調査は今後の介護報酬改定や制度設計に影響していく可能性があります。介護現場でどのようなテクノロジーが使われているのか、どのような効果や課題があるのかが積み上がっていけば、今後の加算、人員配置、ICT活用の議論につながっていく可能性があります。

介護職員にとっても、経営者にとっても、今すぐ何かが変わるというより、「これから介護現場がどの方向へ進もうとしているのか」を知るための資料と考える方が自然です。

この記事で注意して読むべきポイント

このテーマで一番注意したいのは、「テクノロジーを入れれば介護現場は楽になる」と単純に考えないことです。

介護の仕事には、機械やシステムで代替しやすい部分と、代替しにくい部分があります。記録、情報共有、見守り、移乗や入浴の補助などは、テクノロジーや道具によって負担を減らせる可能性があります。

一方で、食事介助、排泄介助、入浴介助、会話、表情の変化への気づき、不安への声かけなどは、人と人との関わりが大きな意味を持ちます。介護は、単に身体の動作を助けるだけの仕事ではありません。

たとえば、食事介助を高度なロボットが安全に行えるようになったとしても、介助される側がどう感じるかは別の問題です。誤嚥の危険を回避できる技術があったとしても、「人に介助してもらう安心感」や「そばに人がいる温かさ」まで置き換えられるとは限りません。

介護現場の生産性向上を考えるときは、効率だけではなく、高齢者が人として大切にされていると感じられるかという視点も欠かせません。

介護現場で生産性向上が求められる背景

介護現場で生産性向上が求められる背景には、人手不足があります。ただし、生産性向上を「少ない人数で無理やり回すこと」と考えると、現場はさらに苦しくなります。

介護職員が長く働ける環境を作るために、無駄な作業を減らし、身体的な負担を減らし、利用者に向き合える余裕を作ることが本来の目的だと思います。

人手不足の中で、現場の負担をどう減らすかが課題になっている

介護現場は、すでにギリギリの人数で回している事業所が少なくありません。

本来であれば、職員が1人くらい余るぐらいの体制で雇えている方が、現場としては安定します。誰かが急に休んだとき、退職者が出たとき、利用者の状態が一時的に重くなったときにも、現場が崩れにくくなるからです。

しかし、現実にはそこまで人件費に余裕がない事業所も多くあります。募集を出しても職員がなかなか集まらないという問題もあります。

その中で、テクノロジーやICTを導入して、職員の負担を減らそうという考え方は理解できます。人を採用するには時間もかかりますし、応募が来るかどうかも分かりません。一方で、機器やシステムであれば、導入手続きや費用の問題はあっても、人を募集するより計画しやすい面があります。

ただし、ここで注意しなければいけないのは、機器を入れたからといって人手不足そのものがすぐに解消するわけではないということです。

介護機器やICTは、職員の肉体的負担や事務作業の負担を減らす可能性があります。しかし、それは「今まで必要だった職員が不要になる」という意味ではありません。特に人と関わる部分が大きい介護では、機械が入っても、人がそばにいる必要は残ります。

「職員を減らすため」ではなく「働き続けられる環境を作るため」の視点が必要

介護現場の生産性向上は、職員を減らすためのものではなく、職員が働き続けられる環境を作るためのものとして考える必要があります。

たとえば、移乗や入浴の支援に使う機器は、職員の腰や膝への負担を減らす可能性があります。利用者を抱える、支える、体勢を変えるといった動作は、介護職員の身体に大きな負担をかけます。そこを機器が補助できれば、職員の疲労やケガのリスクを減らせる可能性があります。

ただ、それは人員不足の解消とは少し違います。機器を操作する職員は必要ですし、利用者の表情や状態を見ながら声をかける職員も必要です。機械が介助を補助しても、介護職員の存在そのものが不要になるわけではありません。

むしろ、職員の身体的な負担が減ることで、今まで疲れ切ってできなかった関わりができるようになる可能性があります。利用者とゆっくり話す、レクリエーションの工夫をする、家族への報告を丁寧にするなど、本来やりたかったけれど人手不足でできなかったことに時間を使えるかもしれません。

介護の生産性向上は、「職員を減らしても回る職場」を作ることではなく、「職員が無理をしすぎず、利用者に向き合える職場」を作ることとして考える方が現場には合っています。

介護サービス全般に関係するテーマとして見る必要がある

介護テクノロジーやICTの話は、介護サービス全般に関係するテーマです。しかし、どのサービスにも同じように効果が出るわけではありません。

入所施設では、見守り機器、夜勤帯のセンサー、移乗支援機器、特殊浴槽などが職員の負担軽減に大きく関わる可能性があります。利用者が施設内で生活しており、夜間の見守りやベッド上での状態確認が必要になるため、テクノロジーが活用しやすい場面があります。

一方で、デイサービスのような通所系サービスでは、利用者は日中に来所し、職員が活動の場面を見ながら対応します。見守りセンサーを使う場面は、入所施設ほど多くないこともあります。もちろん、入浴や移動、記録業務などで活用できる部分はありますが、入所施設と同じ効果を期待するのは難しい場合があります。

訪問介護では、さらに違った難しさがあります。訪問介護は、利用者の自宅に職員が行くこと自体に意味があります。生活援助や身体介護だけでなく、独居高齢者の安否確認や、生活の変化に気づく役割もあります。

もしテクノロジーで何でもできるなら、そもそも訪問しなくていいという話になってしまいます。しかし、実際には「人が訪問すること」そのものに意味があるため、訪問介護ではテクノロジーで置き換えにくい部分が多いと感じます。

だからこそ、介護現場の生産性向上は、介護サービス全般のテーマとして見つつ、サービス種別ごとの違いも丁寧に見なければいけません。

介護テクノロジーやICTは現場をどう変える可能性があるか

介護テクノロジーやICTは、現場の負担を減らす可能性があります。特に、記録、情報共有、見守り、身体介助の補助などは、現場に合えば効果を感じやすい部分です。

ただし、導入すれば必ず働きやすくなるとは限りません。機器やシステムを使いこなすまでの時間、職員への教育、現場に合う運用が必要になります。

記録・情報共有の負担を減らす可能性

介護現場でICTの効果を感じやすいものの一つが、記録業務です。

僕がデイサービスの現場に入ったのは2011年ですが、その頃は、事業所によってはまだ紙の記録が中心でした。日々の利用者の様子、トイレの時間、食事量、バイタル、日中の状態などを紙に書き、デイサービスの時間が終わった後にパソコンへ入力する作業がありました。

当時は、紙に書いた記録をあとからパソコンに打ち込むという二度手間がありました。すべての文章を打ち込むわけではなくても、請求に関わる部分やバイタルなどの管理が必要な情報は入力する必要があり、それだけでもかなりの手間でした。

その後、数年経つと、紙の記録からタブレット入力に変わっていきました。タブレットに入力した情報がそのままパソコン側に反映され、必要な書類やデータにもつながるようになりました。

この変化は、現場にとってかなり大きかったです。利用者の人数分の1日の情報を、あとからパソコンに打ち込む作業が減ったからです。これは、実際に現場で働いていても、明らかに負担軽減になったと感じました。

ただし、ここから先の改善には限界もあります。紙からタブレットになった時点で、大きな便利さは一度出尽くしている部分があります。

たとえば、事業所内の様子をカメラやセンサーで読み取り、利用者一人ひとりの行動や状態が自動で記録され、必要な記録がすべて自動入力されるような仕組みがあれば、さらに大きな負担軽減になるかもしれません。しかし、少なくとも通所介護の現場で、そこまで実用的に広く使える仕組みが一般的になっているとは言いにくいです。

記録のICT化は大きな効果があります。しかし、紙からタブレットに変わった後、さらにどこまで負担を減らせるかは、現場やサービス種別によって差があります。

見守り機器や介護ロボットが職員の動き方に与える影響

見守り機器や介護ロボットは、特に入所施設で効果を発揮しやすい可能性があります。

入所施設では、夜間の見守り、ベッド上での動き、転倒リスク、離床の把握などが重要になります。職員が常にすべての居室を目で見て確認することには限界があります。見守りセンサーがあれば、利用者の動きや異常に気づきやすくなり、職員の巡回や確認の負担を減らせる可能性があります。

今回の資料でも、見守り機器の導入や、見守り機器を活用するための環境整備が、テクノロジー活用に関する取り組みとして出てきます。

見守りについては、機械で代替しやすい部分があると思います。利用者に直接触れる介助とは違い、「異常がないかを確認する」「動きがあったら知らせる」という役割であれば、機器が十分に役割を果たせる場面があります。

食事介助や入浴介助を機械にされることには抵抗を感じる人もいるかもしれませんが、見守りセンサーであれば、利用者の疎外感に直結しにくい面があります。もちろん、プライバシーへの配慮や誤作動の問題はありますが、現場で活用できる可能性は大きいと思います。

一方で、デイサービスでは見守りセンサーの効果を感じにくい場面もあります。デイサービスでは、日中の活動場面を職員が見ていることが多く、必要になればすぐに声をかけたり介助に入ったりします。利用者がベッドで長時間過ごしている入所施設とは環境が違います。

そのため、見守り機器は介護全体に有効な技術ではありますが、すべての介護サービスで同じように使えるわけではありません。

デイサービスなど通所系でも、業務の流れを見直すきっかけになる

デイサービスなどの通所系サービスでは、入所施設ほど大がかりな見守り機器や介護ロボットが活躍する場面は多くないかもしれません。

実際、僕が働いているデイサービスでも、大がかりな機械はありません。一般的な民家を利用したデイサービスであり、入浴介助も特殊な機械を使うというより、手すりやバスボードなどの福祉用具を使って行っています。

しかし、こうした簡易的な道具でも、現場の負担はかなり変わります。

たとえば、バスボードがあるだけでも、入浴介助の負担は大きく軽減されます。利用者が浴槽をまたぐ動作を補助しやすくなり、転倒や無理な姿勢を避けやすくなります。もちろん、使い方に慣れる必要はありますが、慣れた職員が使えば非常に有効です。

これは、大がかりな介護ロボットではなく、道具やアイテムのレベルでも生産性向上につながるということです。機械やICTという言葉だけに目を向けると、どうしても高額な設備を想像しがちですが、現場では手すり、バスボード、シャワーチェア、スライディングボードなどの道具も、十分に職員の負担軽減につながります。

通所系サービスでは、大規模な機器導入よりも、日々の業務の流れを見直し、必要な道具を適切に使うことの方が現実的な場合もあります。

介護助手の活用は、現場の役割分担を変える可能性がある

介護助手の活用は、介護職員が専門的なケアに集中しやすくなる可能性があります。介護職員がすべての業務を抱え込むのではなく、周辺業務を分けることで、現場の負担を減らせる場合があります。

ただし、介護助手は人件費削減のために使うものではありません。役割の線引きが曖昧なまま導入すると、現場の混乱や不満につながる可能性があります。

介護職員が専門的なケアに集中しやすくなる

介護現場では、介護職員が本来の介護以外の業務も多く担っています。

リネン交換、掃除、洗濯、物品補充、配膳準備、片付け、環境整備など、利用者に直接関わる介助以外の業務もたくさんあります。もちろん、それらも介護現場を回すために必要な仕事です。

ただ、介護職員がすべてを担っていると、利用者への直接的なケアや観察、記録、家族対応、職員間の情報共有に使える時間が削られていきます。

介護助手が周辺業務を担うことで、介護職員が専門的なケアに集中しやすくなる可能性があります。今回の資料のヒアリングでも、介護助手の活用によって介護職員の時間が取れるようになったという内容が出ています。

これは、介護職員の仕事を軽く見るという意味ではありません。むしろ、介護職員が専門性を発揮するために、誰が何を担うのかを分けるという考え方です。

周辺業務を分けることで現場の負担を減らせる

介護助手の活用で大事なのは、業務の線引きです。

介護助手が直接介護を行うのか、行わないのか。どこまでを担当し、どこからは介護職員が担うのか。ここが曖昧だと、現場はかえって混乱します。

資料の中でも、介護助手は直接介護を行わないという定義にし、「これ以上はやらない」という業務の線引きをお互いに認識し合う工夫をしている事例が紹介されています。

これは、現場では非常に重要な考え方です。

介護助手がいるからといって、何でも頼めるわけではありません。介護職員側も、介護助手にお願いできる仕事と、お願いしてはいけない仕事を理解しておく必要があります。経営者や管理者も、その線引きを曖昧にせず、職員全体に共有する必要があります。

周辺業務を分けることができれば、介護職員の負担は減ります。しかし、役割分担をしっかり作らなければ、介護助手も介護職員も働きにくくなってしまいます。

ただし、丸投げや人件費削減の発想ではうまくいかない

介護助手の活用は、現場の負担軽減につながる可能性があります。しかし、それを「介護職員を減らすため」と考えるとうまくいかないと思います。

介護助手は、介護職員の代わりに何でもできる存在ではありません。介護助手が担いやすい業務と、介護職員が専門性を持って担うべき業務は違います。

また、介護助手が休んだときに、その業務を誰が担うのかという問題もあります。資料の中でも、介護助手が長期休暇に入った際に、誰がその業務をどの時間に担当するかを考え直す必要が出ている事例が紹介されています。

これは、現場ではかなり現実的な問題です。役割分担が進めば進むほど、その人がいないときの穴も見えやすくなります。

だからこそ、介護助手は単なる人手不足の穴埋めではなく、現場全体の業務設計として考える必要があります。誰が何を担い、誰が休んでも最低限回る体制にするのか。そこまで考えなければ、介護助手の活用は一時的な対策で終わってしまいます。

経営者・管理者が見るべきポイント

経営者や管理者は、テクノロジーや加算を「導入するかどうか」だけで見ない方がいいです。大事なのは、現場の負担が本当に減るのか、職員が使える仕組みになっているのか、事業所のサービス内容に合っているのかです。

機器を入れること自体が目的になると、現場では使われないまま終わることがあります。

機器を入れるだけでは生産性向上にはならない

介護テクノロジーは、入れれば自動的に現場が楽になるものではありません。

機器を選ぶ段階で、現場の課題と合っているかを考える必要があります。入所施設であれば見守り機器が有効な場合がありますが、通所系サービスではそこまで効果を発揮しない場合があります。訪問介護では、そもそも利用者宅に職員が訪問すること自体に意味があるため、機器で置き換えにくい部分があります。

また、同じ入所施設でも、建物の構造、職員配置、利用者の状態によって必要な機器は変わります。資料のヒアリングでも、建物の構造や夜勤職員の人数によって、見守り機器をどこから導入するかを考えている事例があります。

つまり、機器導入は「流行っているから入れる」「加算が取れるから入れる」だけでは不十分です。現場のどの負担を減らしたいのかを明確にし、その課題に合う機器を選ぶ必要があります。

職員が使える仕組みと教育が必要になる

テクノロジーを導入するときは、職員が使える仕組みと教育が必要になります。

新しい機器やシステムは、慣れるまでに時間がかかります。職員によっては、機械やタブレットへの苦手意識があるかもしれません。現場が忙しい中で新しい操作を覚えること自体が負担になることもあります。

資料の中でも、生産性向上推進体制加算の算定に向けた調査や記録が、現場職員の負担になるという声が出ています。スマートフォンを持ちながら業務をし、データを取れなかったところは後から修正するなど、効率化のための作業が逆に負担になるという内容です。

これは、かなり大事な視点です。

生産性向上のために導入したものが、現場では「入力作業が増えた」「覚えることが増えた」「利用者から遊んでいるように見られないか心配」という負担になる可能性があります。

経営者や管理者は、導入後の現場を想像する必要があります。誰が教えるのか、いつ練習するのか、うまく使えない職員をどう支えるのか。そこまで考えなければ、テクノロジーは現場の味方になりません。

加算や人員配置の話だけで判断しない方がいい

介護事業所にとって、加算は重要です。加算を取ることで、職員の処遇改善や設備投資につなげられる可能性があります。

ただし、加算があるから導入する、加算が取れるから良い取り組みだと単純に判断するのは危険です。

生産性向上推進体制加算を算定している施設・事業所では、月平均残業時間や有給休暇取得状況などのデータも分析されています。たとえば、生産性向上推進体制加算Ⅰを取得している施設・事業所では、月平均残業時間が3.96時間、有給休暇取得が10.26日、加算Ⅱでは月平均残業時間が4.78時間、有給休暇取得が9.56日とされています。

この数字だけを見ると、加算を取得している事業所は働きやすいように見えるかもしれません。

しかし、ここで注意したいのは、因果関係と相関関係の違いです。加算を取得したから有給が取れるようになったのか、それとも、もともと職員の働きやすさに取り組む法人だから加算も取得しているのかは、数字だけでは判断しにくい部分があります。

僕が働くデイサービスでは、生産性向上推進体制加算の対象ではありませんが、有給休暇は正社員で年間12日を超えて取得している職員もいます。毎月平均1回は休み、時には2日、3日と休む職員もいます。教育訓練休暇として5日間取る権利もあり、それを含めると年間十数日は休めているのが現実です。

これは「うちの施設はすごい」と言いたいわけではありません。むしろ、平均値を見るときに注意が必要だという話です。

6年半以上働けば、年次有給休暇は最大で年間20日付与されます。その中で、平均が10日前後という数字であれば、取れている事業所もあれば、ほとんど取れていない事業所もある可能性があります。

加算を取得しているから働きやすいと決めつけるのではなく、その法人や事業所が職員にどう向き合っているかを見る必要があります。

介護職員が見るべきポイント

介護職員は、テクノロジー導入を「楽になる話」とだけ受け止めない方がいいです。負担が減る部分もありますが、新しい作業や責任が増える可能性もあります。

大事なのは、現場の声が反映されているかどうかです。職員が納得できないまま導入されると、便利なはずの仕組みが負担になります。

テクノロジー導入で仕事が楽になるとは限らない

介護テクノロジーが入ると、仕事が楽になる部分はあります。移乗支援機器で身体的な負担が減る、見守り機器で巡回の負担が減る、タブレット記録で二度手間が減る。そうした効果は十分に考えられます。

しかし、介護職員の仕事が単純に楽になるとは限りません。

介護職員の中には、利用者のためにもっとやってあげたいと思って働いている人が多くいます。今は人手不足で、やりたいことがあってもできない場面があります。テクノロジーで身体的な負担や記録の負担が減ったとしても、その分だけ職員が楽をするとは限りません。

むしろ、今までできなかった関わりを増やそうとするかもしれません。利用者と話す時間を増やす、活動内容を工夫する、家族への報告を丁寧にする、記録の質を上げる。そのように、空いた時間が別のケアに使われる可能性があります。

介護に求められるものは大きいです。だからこそ、テクノロジー導入によって仕事が減るというより、仕事の質や内容が変わると考えた方が現場に近いと思います。

現場の声が反映されているかが重要

テクノロジー導入で大事なのは、現場の声が反映されているかです。

現場の動き方を知らないまま機器を入れても、使われないまま終わることがあります。たとえば、入浴介助の負担を減らしたいのに、記録システムだけを入れても、身体的な負担は変わりません。夜勤の巡回負担が大きい施設であれば見守り機器が有効かもしれませんが、日中の活動中心のデイサービスでは別の工夫が必要になるかもしれません。

現場で働く職員は、「どこが本当に大変なのか」を知っています。

腰への負担が大きいのか、記録が二度手間なのか、職員間の情報共有がうまくいっていないのか、利用者の見守りで気が休まらないのか。そこを聞かずに導入すると、現場の課題とズレたものが入ってしまいます。

介護職員は、テクノロジーに反対する必要はありません。ただし、「これで何の負担が減るのか」「誰がどう使うのか」「使い方を覚える時間はあるのか」は、現場目線で確認した方がいいです。

働きやすさにつながる職場と、負担が増える職場の違い

同じテクノロジー導入でも、働きやすさにつながる職場と、負担が増える職場があります。

働きやすさにつながる職場では、導入前に現場の課題を聞きます。導入後も、職員が使いやすいように運用を見直します。うまく使えない職員を責めるのではなく、使えるように支えます。

一方で、負担が増える職場では、上から機器やシステムだけが降りてきます。操作を覚える時間もないまま、「今日からこれを使って」と言われます。入力項目が増え、確認作業が増え、現場では利用者を見る時間が減ってしまうこともあります。

テクノロジーそのものが悪いわけではありません。問題は、導入の仕方です。

職員の負担軽減を目的にしているのか。加算取得や見た目のために導入しているのか。ここで現場の受け止め方は大きく変わります。

この情報を読むときに断定してはいけないこと

介護現場の生産性向上については、断定しすぎないことが大切です。テクノロジーは有効な場面がありますが、すべての介護を置き換えるものではありません。

また、調査結果の数字だけを見て、すべての事業所に同じ効果があると判断するのも危険です。

介護職が不要になるわけではない

介護テクノロジーが進んでも、介護職が不要になるわけではありません。

介護には、身体を支える仕事だけでなく、人と関わる仕事があります。声をかける、安心してもらう、表情を見る、いつもと違う様子に気づく、家族の不安を受け止める。こうした部分は、介護の大きな役割です。

もちろん、AIやロボットが進歩すれば、一部の業務は変わっていく可能性があります。ケアマネジャーの業務でも、AIが計画作成や情報整理を支援する場面は今後増えるかもしれません。

しかし、介護の世界で人と人とのつながりを切り離して考えることは難しいです。人との関わりを切り離せば、AIやロボットを活用しやすくなる部分はあるかもしれません。しかし、それをやりすぎると、介護の本質から離れてしまう恐れがあります。

介護職が不要になるというより、介護職が本来やるべきことに集中できるように、機械やICTをどう使うかが大事です。

すべての事業所で同じ効果が出るわけではない

介護テクノロジーは、すべての事業所で同じ効果が出るわけではありません。

入所施設では、見守り機器や移乗支援機器が効果を出しやすい場面があります。夜間の見守り、ベッドからの離床、転倒リスク、身体介助の負担など、テクノロジーが支援しやすい場面が多いからです。

一方で、通所系サービスや訪問系サービスでは、効果が限定的になることがあります。

デイサービスでは、利用者が日中に活動しており、職員が近くで見守っている場面が多くあります。外出レクリエーションに一緒に行く、利用者と会話する、入浴や食事を支えるなど、人がそばにいること自体が大切です。

訪問介護では、利用者の自宅に職員が訪問することに意味があります。独居高齢者であれば、安否確認や生活状況の変化に気づく役割もあります。そこをテクノロジーだけで置き換えるのは難しいと感じます。

生産性向上推進体制加算の対象となるサービスも、施設系、短期入所系、居住系、多機能系などに限られています。これは、テクノロジー導入による効果が見込みやすいサービスに重点が置かれていると考えることもできます。

だからこそ、すべての介護事業所が同じように恩恵を受けられるとは言い切れません。

生産性向上=人員削減と決めつけない

介護現場では、生産性向上を人員削減と結びつけすぎない方がいいです。

確かに、テクノロジーによって一部の業務が効率化されれば、少ない人数で回せる場面が出るかもしれません。資料でも、テクノロジーを活用した人員配置基準の緩和に関する内容が扱われています。

しかし、介護現場はもともと余裕のある人数で回っているわけではありません。今でもギリギリの人数で、職員が無理をして成り立っている事業所があります。

そのような現場でテクノロジーを入れたからといって、さらに職員を減らす方向へ進めば、現場の余裕は生まれません。むしろ、利用者に向き合う時間や、職員が休める余裕を作るために使うべきだと思います。

生産性向上は、人を減らすためではなく、人が続けられる職場を作るために使われるべきです。

介護現場のこれからを考えるうえで大切な視点

介護現場のこれからを考えるうえでは、テクノロジーを入れるかどうかだけでは不十分です。職員の負担軽減、ケアの質、サービス種別ごとの違い、予算の使い道をあわせて考える必要があります。

介護職員が働き続けられなければ、どれだけ制度や機器が整っても現場は回りません。

現場の負担軽減とケアの質を両立できるか

介護テクノロジーの導入で大事なのは、現場の負担軽減とケアの質を両立できるかです。

職員の身体的な負担が減ることは大事です。記録の手間が減ることも大事です。残業が減り、有給休暇が取りやすくなることも大事です。

ただし、その結果として利用者への関わりが薄くなってしまうなら、介護現場としては慎重に考える必要があります。

たとえば、見守りセンサーで職員の巡回負担が減るのは良いことです。しかし、それによって利用者と顔を合わせる機会が極端に減るなら、別の問題が出るかもしれません。食事介助や入浴介助も、単に安全に行えればいいというだけではありません。そこには声かけ、安心感、表情の確認、人との触れ合いがあります。

介護の生産性向上は、効率だけで判断できません。職員が楽になることと、利用者が安心して過ごせることの両方を見なければいけません。

職員が長く働ける環境づくりにつながるか

介護現場で本当に必要なのは、職員が長く働ける環境づくりです。

人手不足の中で、介護職員は肉体的にも精神的にも負担を抱えています。利用者のために頑張りたい気持ちがあっても、現場に余裕がなければ限界が来ます。

テクノロジーやICTは、その負担を減らすために活用されるべきです。移乗や入浴の負担を減らす。記録の二度手間を減らす。情報共有をしやすくする。見守りの不安を軽くする。こうした形で使われるなら、現場にとって意味があります。

ただし、テクノロジー導入にも予算が必要です。機器の購入費、維持費、メンテナンス費、職員教育の時間もかかります。

介護や福祉に使われる予算には限りがあります。その予算がテクノロジーに使われることで、別の支援や待遇改善に回るはずだったお金が減る可能性もあります。だからこそ、どこに予算を使うのかは慎重に考える必要があります。

テクノロジーを入れること自体が目的ではありません。職員が長く働ける環境につながるかどうかが大事です。

介護事業所ごとの実情に合わせた導入が必要になる

介護テクノロジーやICTは、事業所ごとの実情に合わせて導入する必要があります。

入所施設では、見守り機器や移乗支援機器が大きな効果を出す可能性があります。夜勤帯の負担や身体介助の負担が大きいからです。

デイサービスでは、記録のICT化や入浴介助を支える道具、職員間の情報共有の仕組みなどが現実的かもしれません。大がかりな機械よりも、日々の業務の中で本当に使える道具やシステムの方が効果を感じやすい場合があります。

訪問介護では、記録や連絡のICT化は有効かもしれませんが、訪問すること自体をなくすのは難しいです。利用者宅に行き、生活の様子を見て、変化に気づくことが訪問介護の役割でもあるからです。

つまり、介護現場の生産性向上は、全事業所に同じ機器を入れれば解決する話ではありません。

効果が出やすい施設には積極的に導入するべきです。しかし、その一方で、通所系や訪問系のように恩恵を受けにくいサービスが置き去りにならないようにする必要があります。

入所系サービスの介護職員も大変です。身体介助の負担は非常に大きいと思います。だから、入所施設への支援が必要ないという話ではありません。

ただ、通所系や訪問系の職員も、別の形で人手不足や介護負担を抱えています。そこにも支援が届く仕組みが必要です。

介護現場の生産性向上は、テクノロジーを導入することだけで完結する話ではありません。介護職員が無理をしすぎず、利用者に人として向き合える時間をどう作るか。その視点を失わないことが、これからの介護現場には必要だと思います。

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