参考:厚生労働省 令和6年度介護従事者処遇状況等調査結果
・令和6年度介護従事者処遇状況等調査結果のポイント
・令和6年度介護従事者処遇状況等調査結果の概要
・令和6年度介護従事者処遇状況等調査結果
介護職員の平均給与は本当に約1万4,000円上がったのか
平均給与額13,960円には賞与などの一時金も含まれる
厚生労働省が公表した「令和6年度介護従事者処遇状況等調査」では、介護職員等処遇改善加算を取得している施設・事業所で働く、月給・常勤の介護職員の平均給与額が、前年より13,960円増えています。
そのため、13,960円がそのまま毎月の給与明細に上乗せされたわけではありません。調査結果を正しく見るには、賞与などを含めた平均給与額と、毎月決まって支払われる給与を分けて考える必要があります。
毎月決まって支払われる基本給等の増加は11,130円
厚労省の調査では、平均給与額とは別に「基本給等」の増加額も示されています。ここでいう基本給等とは、基本給に、毎月決まって支払われる手当を加えた金額です。
つまり、介護職員の給与は一時金まで含めると約1万4,000円増えていますが、毎月決まって支払われる部分の増加は1万円前後です。この違いを説明しないまま、平均給与額だけを取り上げると、実際よりも大きな賃上げが行われたように受け取られる可能性があります。
平均額を介護職員全員の昇給額としては見られない
11,130円も13,960円も、調査対象となった介護職員の平均です。すべての介護職員が同じ金額だけ昇給したわけではありません。
今回の主な比較対象は、調査対象となった施設・事業所に令和5年と令和6年の両方で在籍していた、月給・常勤の介護職員です。途中で入職した職員や退職した職員、非常勤職員まで含めた介護職員全体の昇給額ではありません。
実際の増加額は、勤続年数、保有資格、役職、事業所の配分方法などによって変わります。平均より大きく上がった人がいる一方で、ほとんど変わっていない人もいるはずです。
したがって、今回の調査結果から確認できるのは、対象となった介護職員の平均給与が増えたということです。介護職員全員の月給が約1万4,000円上がったと受け取ることはできません。
基本給等11,130円増だけで処遇改善の成果とは言いにくい
東京都では最低賃金への対応だけで月額約1万900円増える
介護職員の基本給等が11,130円増えたことは、賃金がまったく変わらないよりも前進です。ただし、この金額だけで処遇改善が十分に進んだと評価することには疑問が残ります。
地域や雇用条件によって事情は異なりますが、最低賃金の引き上げに対応するだけでも、今回示された基本給等11,130円増に近い金額が必要になるということです。
もちろん、今回の調査対象となった介護職員が全員最低賃金で働いているわけではありません。それでも、1万円前後という増加額が、現在の社会で特別に大きな賃上げなのかは慎重に考える必要があります。
最低賃金に近い水準で働く介護職員も少なくない
介護職の求人を見ると、地域の最低賃金に数円から数十円を加えた程度の時給で募集している事業所があります。正社員でも、基本給を月の所定労働時間で割ると、最低賃金に近い水準になるケースはあります。
介護職員の基本給等が1万円前後増えていても、その中に最低賃金への対応が含まれているのであれば、増加額のすべてを介護職員だけに行われた特別な処遇改善とは見られません。
見るべきなのは給与が増えたかではなく賃金差が縮まったか
処遇改善加算は、給与が低いといわれてきた介護職員の待遇を底上げするために設けられた制度です。その目的から考えれば、前年より給与が増えたかだけではなく、他産業との賃金差が縮まったかを見る必要があります。
今回の厚労省調査は、介護職員の平均給与が増えたことを示しています。しかし、その数字だけでは、他産業との差が縮まったかまでは判断できません。
処遇改善の成果を評価するのであれば、加算を支給したか、平均給与が増えたかだけでなく、介護職員の賃金水準が社会全体の中でどこまで上がったのかを確認する必要があります。
処遇改善加算が通常の昇給を支える制度になっている
加算がなくても事業所は一定の賃上げを迫られる
物価や最低賃金が上がるなかで、介護事業所だけが給与を据え置き続けることは難しくなっています。給与が変わらなければ、職員が実際に使えるお金は減り、生活の負担は重くなります。
人材確保の面でも、近隣の介護事業所や他業種が給与を上げているのに、自分の事業所だけが賃上げをしなければ、採用はさらに難しくなります。すでに働いている職員が、より条件のよい職場へ移る可能性も高まります。
そのため、処遇改善加算がなかったとしても、多くの事業所は最低賃金への対応や人材確保のために、一定の賃上げを検討せざるを得ません。
職員の底上げより法人の人件費負担を補う面がある
処遇改善加算によって介護職員の給与が増えること自体は、悪いことではありません。加算があるからこそ、賃上げに踏み切れる事業所もあります。
最低賃金への対応や人材の流出を防ぐために、事業所はどこかで給与を上げる必要があります。その費用を加算で賄えるのであれば、法人の人件費負担は軽くなります。
処遇改善加算が通常の昇給に使われているだけなら、介護職員の給与は社会全体の賃金上昇についていくだけで、他産業との差を縮めるところまでは進みません。
介護職の賃上げを処遇改善加算だけに任せる限界
介護事業所は人件費が上がっても自由に値上げできない
一般企業は、原材料費や人件費が上がったときに、商品やサービスの価格を見直すことができます。実際に値上げできるかは別としても、収入を増やすための選択肢はあります。
人件費や光熱費、食材費、車両費、物品費が増えても、介護報酬が変わらなければ、増加した費用は限られた収入の中から支払うことになります。
介護職員の給与を上げる必要があるとわかっていても、事業所の収入が増えなければ、法人独自の賃上げを続けることには限界があります。
毎年上がる人件費に3年ごとの介護報酬改定では対応しにくい
介護報酬は原則として3年ごとに改定されます。一方、最低賃金は毎年見直され、物価や人件費も年度ごとに変化します。
介護報酬が改定された直後から最低賃金や物価が上がれば、次の改定までの間、事業所は増加した負担を抱え続けることになります。
毎年変わる経営環境に対して、3年に一度の改定だけで対応する仕組みには無理があります。少なくとも、最低賃金や物価の大きな変化を、基本報酬へ継続的に反映できる仕組みが必要です。
基本報酬が増えなければ法人独自の昇給は続けられない
基本報酬が十分に増えないまま人件費だけが上がれば、事業所の経営は圧迫されます。利益を削って賃上げを続けるにも限界があり、経営状態によっては人員配置や設備更新に影響が出る可能性もあります。
基本報酬が上がらなければ、通常の昇給まで処遇改善加算に頼る状態が続きます。その状態では、処遇改善加算を増やしても、介護職員の給与を他産業以上に引き上げる部分が残りにくくなります。
基本報酬を上げたうえで処遇改善を重ねる必要がある
基本報酬で最低賃金や物価の上昇に対応する
処遇改善加算そのものが悪いわけではありません。問題は、基本報酬が人件費や物価の上昇に十分対応しないまま、処遇改善加算だけで介護職員の賃金問題を解決しようとしていることです。
基本報酬で通常の昇給を支えられれば、事業所は処遇改善加算を、介護職員の給与をさらに上げるための原資として使いやすくなります。
介護事業所が経営を維持するための収入と、介護職員の給与を特別に底上げするための加算を、同じ役割にしてはいけません。
処遇改善で介護職の給与をさらに上乗せする
介護職と他産業の賃金差を縮めるのであれば、介護職員の賃上げは、社会全体の通常の賃上げを上回る必要があります。
一般企業でも最低賃金や物価に合わせて給与が上がるのであれば、介護事業所もまず基本報酬によって同じ水準の賃上げに対応する。そのうえで処遇改善加算を上乗せして、初めて介護職員の給与を相対的に底上げできます。
通常の賃上げを基本報酬で支え、その上に処遇改善を重ねる。この順番がなければ、処遇改善加算は介護職員の給与を特別に引き上げる制度として十分に機能しないでしょう。
制度の成果は他産業との賃金差で判断する
今回の厚労省調査から、対象となった介護職員の平均給与が前年より増えたことは確認できます。しかし、平均給与額13,960円増、基本給等11,130円増という数字だけで、処遇改善が十分に進んだとは判断できません。
最低賃金への対応だけでも近い金額が必要になる地域があり、他産業でも賃上げが進んでいます。そのなかで介護職員の給与が1万円前後増えても、社会全体と同じ程度の上昇であれば、賃金差は残ったままです。
見るべきなのは、処遇改善加算を支給したかではありません。介護職員の給与が他産業よりも大きく伸び、これまでの差が実際に縮まったかどうかです。
基本報酬で最低賃金や物価の上昇に対応し、その上に処遇改善を重ねる。介護職員の給与を本当に底上げするのであれば、この二つを分けて進める必要があります。
