厚労省の通知は「介護職員確保のための支援」を進める内容
補助金や援助を行いやすくするための通知
今回の厚労省情報は、介護職員の人材確保に向けて、都道府県が介護サービス事業者などに補助金や必要な援助を行えるようにするための通知です。
細かく見ていくと、法律の改正や補助金事務の扱いなど、制度上の話が中心になります。事業者に対する補助金の支払い事務を国保連に委託できるようにすることなども含まれています。
ただ、介護現場で働く職員にとっては、国や都道府県、国保連の事務分担まで細かく知る必要はあまりないと思います。大事なのは、こうした支援が最終的に現場で働く職員の待遇にどうつながるのかです。
今回の記事で見るのは制度の細かさではなく現場への届き方
介護職員の賃上げや職場環境改善に関する支援は、これまでも何度も行われてきました。処遇改善加算のように継続的に関わるものもあれば、一時的な補助金のように、その時期だけ申請が必要になるものもあります。
制度があること自体は、介護事業所にとっても職員にとってもありがたいことです。介護報酬は、一般的な商売のように事業所が自由に価格を決められるものではありません。利用者一人あたりの報酬は制度で決められており、定員にも上限があります。
そのため、職員の待遇を上げようと思ったとき、事業所の努力だけで簡単に売上を増やせるわけではありません。加算や補助金をきちんと拾えるかどうかは、事業所の運営にとって大きな意味を持ちます。
介護職員の賃上げ支援は事業所を通して現場に届く
ここで見落とせないのは、国や自治体が支援制度を用意しても、それがそのまま自動的に現場職員へ届くわけではないということです。
多くの場合、事業所が情報を確認し、必要な書類を作成し、申請し、そのうえで職員へどのように支払うかを決めていきます。つまり、制度と現場職員の間には、必ず事業所の対応があります。
同じ介護職員として働いていても、勤めている事業所が制度をきちんと把握しているか、申請しているか、職員へ説明しているかによって、受け取る手当や賃金に差が出ることがあります。
制度そのものを見るだけではなく、制度を現場に届ける事業所側の力を見る必要があります。
補助金はあるだけでは職員の待遇につながらない
介護事業所は自由に売上を増やしにくい
介護事業所は、努力すればするほど自由に売上を増やせる仕事ではありません。
たとえば飲食店であれば、料理の質を上げたり、サービスを工夫したりして、価格を上げることもできます。もちろん簡単なことではありませんが、自分たちで価格設定を考える余地があります。
しかし、介護保険サービスはそうではありません。介護報酬という決められた仕組みの中で運営されています。同じサービス種別、同じ規模、同じ条件であれば、基本的な報酬は大きく変えられません。地域区分などによる違いはありますが、事業所が好きなように単価を上げることはできません。
だからこそ、加算や補助金は重要になります。職員の待遇を上げたいと思っても、元になる財源がなければ簡単にはできません。補助金や支援金は、その財源を増やすための大事な手段になります。
加算や補助金を拾えるかどうかが待遇差になる
問題は、補助金や加算が用意されていても、すべての事業所が同じように活用できるわけではないことです。
制度を知っている人がいるか。申請書類を作れる人がいるか。期限までに対応できる体制があるか。職員へ説明できる管理者や法人側の人間がいるか。
こうした部分で差が出ます。
僕が関わっていた事業所では、毎月の会議などで、処遇改善や補助金の内容を職員へ伝えるようにしていました。いつごろ申請するのか、通ればいつごろ支給されるのか、正社員やパート職員にどのような形で反映されるのか。細かい制度をすべて理解してもらうというより、職員が自分の待遇に関わる部分を見通せるように伝えていました。
そうすると、職員側もこうした制度に関心を持つようになります。ニュースなどで新しい支援策を見た職員から、「この制度はうちでも関係ありますか」と聞かれることもありました。
一方で、他の法人で働く職員の話を聞くと、「そんな手当はもらっていない」「そもそも会社が申請しているのか分からない」という声もありました。実際に申請していないのか、申請して支払われているけれど説明されていないのかは、外からは分かりません。
ただ、少なくとも職員に伝わっていない事業所があることは感じます。
同じように働いても法人の対応で手当が変わることがある
介護職員からすれば、同じように現場で働いているのに、法人の対応によって手当や賃金に差が出るのは納得しにくい部分だと思います。
もちろん、申請していない法人がすべて悪いとまでは言えません。制度が複雑で、事務負担が大きいこともあります。管理者が現場業務を兼ねていて、新しい情報を追う余裕がない法人もあります。
ただ、結果として職員に支払えるお金に差が出るのは事実です。
介護職員の待遇は、現場での頑張りだけで決まるものではありません。法人や事業所が制度をどう扱っているかによっても変わります。ここは、介護職員が職場を選ぶときにも見ておいた方がいい部分だと思います。
制度を理解して申請できる事業所と、手が回らない事業所がある
申請する側には情報収集と事務負担がある
補助金は、あるだけで自動的にもらえるものではありません。情報を確認し、要件を読み、書類を作り、期限内に申請する必要があります。
処遇改善に関する制度も、これまで何度も形が変わってきました。一度覚えれば何年もそのまま使えるというより、毎年のように確認が必要になることがあります。国の資料、都道府県の案内、市区町村の通知などを見ながら進めなければならないこともあります。
現場職員から見ると、「申請すればいいだけではないか」と感じるかもしれません。しかし、実際に申請する側に立つと、制度の理解から書類作成、職員への説明、支給方法の決定まで、かなりの手間がかかります。
それでも、職員の待遇につながるのであれば、事業所としてはできる限り対応したいところです。
小規模事業所ほど制度対応が重くなりやすい
特に小規模の事業所では、この負担が大きくなりやすいです。
代表が管理者を兼ねていたり、管理者が現場業務にも入っていたりする事業所では、日々の運営だけでも手一杯になります。利用者対応、家族対応、職員配置、請求、記録、トラブル対応などを抱えながら、新しい補助金情報まで追い続けるのは簡単ではありません。
地域密着型のデイサービスのように、規模が小さい事業所では、専任の事務担当や制度対応に詳しい職員を置く余裕がないこともあります。そうなると、制度を知っていても申請まで進められない、そもそも情報を拾いきれないということが起こります。
これは、職員を大切にしていないからという単純な話ではありません。人手や時間、事務体制の問題もあります。
大きな法人ほど一人の理解を複数事業所へ広げやすい
一方で、大きな法人にはスケールメリットがあります。
一人の担当者が制度を理解すれば、その情報を複数の事業所へ広げることができます。一つの事業所だけで補助金を受ける場合と、十の事業所で同じ制度を活用する場合では、得られる効果が変わります。
申請の労力は、事業所数に完全に比例して増えるわけではありません。最初に制度を理解し、申請の型を作るところが大変で、その後は横展開できることもあります。
そう考えると、補助金制度は、結果的に体制のある法人ほど活用しやすくなる面があります。これは介護業界全体で見ると、小規模事業所にとって厳しい部分です。
制度は職員の待遇改善を目的にしていても、そこにたどり着くまでの事務負担が大きければ、体力のある法人とそうでない事業所で差が広がる可能性があります。
職員への説明があるかどうかで受け止め方は変わる
会議で金額や支給時期を伝えれば職員は安心しやすい
補助金や処遇改善のお金は、職員にとって分かりにくいものです。
毎月の給料に入っているのか、一時金として支払われるのか、時給に上乗せされているのか、手当として出ているのか。説明がなければ、職員は判断しにくいです。
だからこそ、事業所側の説明は大事です。
制度の細かい条文まで伝える必要はありません。職員が知りたいのは、自分たちの待遇にどう関係するのかです。いつごろ支給されるのか。どのような考え方で分配されるのか。パート職員と正社員でどう違うのか。今後も続くものなのか、一時的なものなのか。
このあたりを伝えるだけでも、職員の受け止め方は変わります。
説明がないと「何のお金か分からない」状態になる
反対に、説明がないと、職員は「今回いつもより多かったけれど、何のお金なのか分からない」という状態になります。
給料明細を細かく見ない職員もいます。毎月大きく金額が変わらない正社員であれば、あまり気にしない人もいるでしょう。パート職員でも、扶養の範囲内で働いている場合などは、細かい内訳まで意識していないことがあります。
ただ、それでも会社が何をしてくれているのか、どの制度を活用しているのかがまったく見えないと、職員の安心感にはつながりません。
ニュースなどで「介護職員の賃上げ」と報じられたときに、自分の給料に変化がなければ、職員は不信感を持つことがあります。「うちの会社は申請しているのか」「本当に職員に支払われているのか」と感じる人も出てきます。
制度そのものが複雑だからこそ、事業所側の説明が必要になります。
処遇改善や補助金は事業所への信頼にも関わる
処遇改善や補助金の扱いは、単なるお金の話だけではありません。事業所への信頼にも関わります。
職員に対してきちんと説明し、見通しを伝え、できるだけ賃金に反映しようとしている事業所であれば、職員は「会社が動いてくれている」と感じやすくなります。
逆に、制度の話がまったく出てこない、何に使われているのか分からない、聞いても曖昧な返答しかないという状態では、不信感につながります。
もちろん、職員が制度をすべて理解する必要はありません。むしろ本来は、現場職員が制度の細かい部分まで気にせず、利用者や家族への支援に集中できる方がいいと思います。
しかし現実には、事業所によって対応に差があります。だからこそ、職員側も「この事業所は制度をきちんと拾っているのか」「職員へ説明しているのか」を見る必要が出てきています。
賃上げ支援は「辞めさせないため」だけではない
今いる職員が辞める理由は給料だけではない
介護職員の離職理由を考えるとき、給料は大きな要素の一つです。給料が低いことに不満を持つ職員はいますし、待遇が良いに越したことはありません。
ただ、現場感覚で言うと、今いる介護職員が辞める理由は給料だけではありません。
人間関係、職場の雰囲気、業務負担、管理者への不信感、休みの取りやすさ、利用者対応の大変さ。こうしたものが重なって辞める人も多いです。
介護職を辞めた人が、別の介護事業所でまた働くことも珍しくありません。つまり、今の職場を辞めても、介護職そのものを辞めているとは限らないのです。
そう考えると、今いる職員を辞めさせないためには、給料だけでなく、職場環境や人間関係、業務負担の見直しも必要になります。
介護業界の外から人を呼び込むには賃金水準が重要になる
一方で、介護業界全体の人材確保を考えると、賃金水準はかなり重要です。
すでに介護職として働いている人は、給料だけで仕事を選んでいるわけではない人も多いと思います。利用者との関わり、やりがい、生活を支える仕事としての意味を感じている人もいます。
しかし、これから仕事を探す人にとっては違います。介護職を選択肢に入れるかどうかを考えるとき、給料は最初に目に入る条件です。
求人票を並べて見たときに、仕事内容が分からない段階では、給料、休日、勤務時間、通勤距離などで比較されます。介護の仕事に興味があっても、賃金が低すぎれば候補から外れてしまう人もいるでしょう。
つまり、賃上げは今いる職員を引き止めるためだけではなく、介護業界の外にいる人に「介護職も働く候補に入れてみよう」と思ってもらうためにも必要です。
職場環境改善と賃上げは切り離しにくい
賃上げと職場環境改善は、別々の話に見えて、実際にはつながっています。
職員を大切にしようとする事業所は、職場環境を整えようとします。業務負担を減らす仕組みを考えたり、職員の意見を聞いたり、必要な備品やシステムを入れたりします。
その延長線上に、補助金や処遇改善をきちんと申請し、職員へ還元しようとする姿勢もあると思います。
もちろん、賃金が高い事業所が必ず良い事業所とは言い切れません。逆に、賃金が低いから職員を大切にしていないと断定することもできません。
ただ、制度を確認し、申請し、説明し、できる限り職員に反映しようとする姿勢は、事業所を見る一つの材料になります。
職員を大切にしているかどうかは、言葉だけでは分かりません。最終的には、働きやすさや待遇にどれだけ形として出ているかが大事になります。
介護事業所に求められるのは、制度を現場に届ける力
現場職員は本来、制度より利用者支援に集中できる方がいい
介護現場で働く職員は、本来であれば補助金や制度の細かい仕組みに神経を使わなくてもいいはずです。
現場職員が向き合うべきなのは、利用者本人や家族です。日々の介助、声かけ、記録、送迎、入浴、食事、レクリエーション、相談対応など、現場にはやるべきことがたくさんあります。
その中で、補助金の申請状況や処遇改善の仕組みまで職員が気にしなければならない状態は、あまり健全とは言えません。
理想を言えば、制度や補助金のことは法人や事業所がしっかり把握し、職員は必要な説明だけ受けて、安心して現場に集中できることです。
それでも今は職員側も事業所の姿勢を見る必要がある
ただ、現実には事業所によって差があります。
制度をきちんと把握している事業所もあれば、情報を拾いきれていない事業所もあります。申請しているのに職員への説明が足りない事業所もあるかもしれません。
だからこそ、職員側もある程度は見ておいた方がいいと思います。
「うちの事業所は処遇改善や補助金について説明してくれるか」
「支給時期や金額の考え方を伝えてくれるか」
「ニュースで出ている賃上げ支援について、職員に何か案内があるか」
こうした部分は、事業所の姿勢を見る材料になります。
細かい制度を理解する必要はありません。ただ、自分たちの待遇に関わる制度について、事業所がきちんと動いているかどうかは、働き続けるうえで無視できない部分です。
補助金を拾い、説明し、賃金に反映できることが事業所の差になる
今回の厚労省情報は、制度上は補助金や事務の扱いに関する通知です。しかし、介護現場や介護事業所の目線で見ると、もっと大きな問題が見えてきます。
それは、支援制度があっても、それを現場に届けられる事業所と、届けきれない事業所があるということです。
介護報酬に上限がある中で、補助金や加算を活用することは、職員の待遇を考えるうえで大きな意味を持ちます。だからこそ、制度を知っているか、申請できるか、職員へ説明できるか、賃金に反映できるかが、事業所の差になります。
介護職員の賃上げ支援は、制度があるだけでは十分ではありません。
その制度を事業所がきちんと拾い、現場へ届ける力があって、初めて職員の待遇改善につながります。
