令和8年5月8日に、厚生労働省老健局から「介護保険最新情報 Vol.1502」が出されました。内容は、介護事業所で突発的に人員基準を満たせなくなった場合の、人員基準欠如による減算の取扱いに関するものです。
一見すると、施設責任者や運営側だけに関係する制度のように見えるかもしれません。しかし実際には、人員不足が起きたときに現場で負担を受けるのは、そこで働く介護職員です。そのため、今回の内容は管理者だけでなく、現場で働く職員も知っておく意味があると感じています。
この記事では、厚生労働省老健局の介護保険最新情報 Vol.1502について、制度の内容を確認しながら、介護現場で働く側・運営する側の両方の視点から感じたことをまとめます。
介護事業所の人員不足に関する新しい特例とは
急な欠員ですぐ減算になるとは限らない制度変更
介護事業所では、サービスごとに必要な職員数や職種が決められています。いわゆる人員基準です。
これまでも、人員基準を満たせない状態になれば、人員基準欠如として介護報酬の減算につながる可能性がありました。介護事業所にとって、人員基準は単なる内部のシフト管理ではなく、運営そのものに関わる重要な基準です。
今回の厚生労働省の通知では、突発的で想定が難しい事情によって、やむを得ず人員基準上必要な人数から1割以内の不足が生じた場合、一定の条件を満たせば、1年に1回に限り、人員欠如による減算の適用を一時的に猶予する取扱いが示されています。適用は令和8年6月の算定分からとされています。
つまり、急な欠員が出たからといって、すべてのケースですぐに減算になるとは限らない可能性が出てきたということです。
ただし、これは「人員不足でも大丈夫」という制度ではありません。あくまでも、やむを得ない事情があり、職員確保に向けた取り組みを行い、必要な報告をした場合に限られる特例です。
対象は一部のサービスではなく、複数の介護サービスに関係する
今回の内容は、特定の介護サービスだけに関係する話ではありません。
通知では、通所系サービス、短期入所系サービス、施設系サービス、地域密着型サービス、介護予防サービスなど、複数の関係通知の一部改正として示されています。
そのため、特定のサービスだけに限定して考えるよりも、対象となる複数の介護サービスに関係する制度変更として見たほうが自然です。
ただし、すべての介護事業所に一律で関係するというより、通知で対象となっているサービスや職種、人員基準に関係する事業所に影響する内容です。
この記事では、対象となる介護サービスの責任者や運営側、そして現場で働く介護職員に関係する話として考えていきます。
「人手不足なら何でも認められる」という話ではない
ここで一番注意しなければいけないのは、「人手不足なら減算されない」という話ではないことです。
今回の特例は、突発的で想定が困難な事象により、やむを得ない事情が生じた場合が前提です。そのうえで、人員基準上必要とされる員数から1割以内の減少であること、職員確保に向けた取り組みを行っていること、指定権者へ報告すること、有効な求人票の写しを添付することなどが求められています。
慢性的に人員が足りていない職場が、「この特例があるから大丈夫」と考えるのは危険です。
現場でよくある「なんとか回っている」という状態と、制度上問題がない状態は別です。ギリギリの人員で毎日をしのいでいる職場ほど、この制度を都合よく解釈しないよう注意が必要です。
今回の特例が設けられた背景
介護現場では急な退職や長期不在が運営に直結する
介護現場では、急な退職や体調不良、家族の事情による長期不在などが、事業所の運営に直結します。
大きな法人であれば、他事業所から応援を出したり、法人内で人員を調整したりできる場合もあります。しかし、小規模な事業所やギリギリの配置で運営している事業所では、一人の欠員がそのまま人員基準の問題につながることがあります。
特に介護現場では、誰かが休んだからといって、サービスを簡単に止めることはできません。利用者はその日も来ます。入浴、食事、排泄、送迎、記録、家族対応などもあります。
だからこそ、突発的な欠員に対して、一定の条件のもとで減算を猶予する仕組みが設けられたことには、現場を知る立場から見ても一定の意味があると思います。
人員基準は守る必要がある一方で、現場には突発的な欠員が起きる
人員基準は、当然守らなければいけません。これは介護事業所としての大前提です。
ただし、現場では、シフト上はきちんと人員を満たしていたとしても、当日の体調不良などで突発的に穴が開くことがあります。
僕自身、デイサービスで8年間管理者をしていた期間の中で、1日だけ、生活相談員が体調を崩して出勤できず、生活相談員がいない日ができてしまったことがあります。
その日は、もともとのシフトでは人員を満たしていました。しかし、当日の体調不良だったため、事前にどうにかできるものではありませんでした。当時は生活相談員の人員をかなりギリギリで回していたため、急な休みが出ると、そのまま穴が開いてしまう状態でした。
その時、僕はすぐに市役所へ連絡し、その旨を伝えました。
市役所の方は、「連絡があったから大丈夫です」とは言いませんでした。むしろ、「こちらから大丈夫とは言えない」「しかし、連絡があったことはきちんと記録しておきます」という対応でした。
その後、運営推進会議でもその件が議題に上がりました。
結果として、その時は特にペナルティのようなものはありませんでした。おそらく、正直に伝えたこと、欠員が分かった時点ですぐに連絡したこと、本当に緊急であり、その1日だけだったこと、そしてシフト自体はきちんと組まれていたことが影響したのではないかと思っています。
ペナルティーがなかったのはたまたまです。参考にはしないでください!!
後にも先にも、僕の8年間の管理者生活でそのようなことが起きたのは、その1日だけでした。
この経験からも、小規模な事業所では、こうしたことは現実に起こり得ると感じています。人員基準を守る必要があることは当然ですが、現場には突発的な欠員が起こる可能性もあります。
採用難の中で、事業所が立て直す時間を確保する意味がある
介護業界では、人材確保が簡単ではありません。
求人を出せばすぐに応募が来るわけではありませんし、応募があっても採用につながるとは限りません。採用できたとしても、すぐに現場で一人分の戦力になるわけでもありません。
そのため、急な退職や長期不在が起きたとき、事業所がすぐに人員を補充できないことは現実としてあります。
今回の特例には、そうした事業所に対して、一定の条件のもとで立て直す時間を確保する意味があるのだと思います。
ただし、それは「採用できないから仕方ない」で済ませるための制度ではありません。事業所側が本気で職員確保に動いていることが前提です。
特例が認められる主な条件
今回の特例で特に重要な条件
- 突発的で想定が難しいやむを得ない事情であること
- 人員基準上必要な人数から1割以内の不足であること
- 1年に1回に限られること
- 人員欠如が生じた月の翌々月までの猶予であること
- 職員確保に向けた具体的な取り組みを行うこと
- 指定権者への報告と求人票の写しの添付が必要であること
突発的で想定が難しいやむを得ない事情であること
今回の特例で重要なのは、「突発的で想定が困難な事象により、やむを得ない事情が生じた場合」という点です。
つまり、あらかじめ分かっていた退職や、慢性的な採用不足を放置していたケースまで、すべて特例として扱われるわけではないと考えるべきです。
僕が管理者時代に経験した生活相談員の欠員も、当日の体調不良によるものでした。もともとシフトは組まれており、その日に急に出勤できなくなったため、対応のしようがありませんでした。
当時は今回のような制度はありませんでした。そのため、正式に「特例として認められた」というより、すぐに連絡し、状況を説明した結果、減算の対象にはされなかったというのが正確なところです。
今回のルールがあることで、同じようなケースが起きたときに、「本来は駄目だが、特別に見逃す」という曖昧な対応ではなく、条件に合えば正式な特例として扱われる可能性が出てきたのではないかと思います。
ただし、これはあくまでも可能性です。最終的にどう判断されるかは、個別の事情や自治体、指定権者の確認が関係してくるはずです。
人員基準上必要な人数から1割以内の不足であること
今回の特例では、人員基準上必要とされる員数から1割の範囲内で減少した場合が対象とされています。
この「1割以内」という条件は重要です。
人員が大きく不足している状態まで、すべて猶予されるわけではありません。あくまでも、必要な人員から見て限定的な不足であることが前提です。
現場では「一人足りないだけ」と思われることもありますが、事業所の規模によっては、その一人が人員基準に大きく影響します。特に小規模な事業所では、一人の欠員がそのまま基準上の問題につながることがあります。
1年に1回に限られること
今回の特例は、1年に1回に限るとされています。
これは、何度も繰り返し使える制度ではないということです。
もし同じような欠員が何度も起きているのであれば、それは突発的な問題ではなく、事業所の人員体制そのものに問題があると見られる可能性があります。
人員欠如が生じた月の翌々月までの猶予であること
今回の特例では、人員欠如が生じた日の属する月の翌々月まで、減算の適用を猶予する取扱いが示されています。
これは、事業所にとって一定の立て直し期間になる可能性があります。
ただし、猶予期間があるからといって、その間に人員不足の状態を放置してよいわけではありません。むしろ、その期間内に採用活動や配置の見直しを進めることが求められます。
猶予はゴールではなく、立て直すための時間です。
職員確保に向けた具体的な取り組みが必要であること
特例を受けるには、職員確保に向けた取り組みが必要です。
通知では、公共職業安定所、都道府県ナースセンター、福祉人材センターなどの無料職業紹介事業を活用して、職員確保に係る取り組みを行っていることが示されています。
また、民間職業紹介事業者を利用する場合には、医療・介護・保育分野における適正な有料職業紹介事業者認定制度による適正認定事業者を含むことが求められています。
つまり、単に「人が足りません」と言うだけでは足りません。
どこに求人を出しているのか。どのように採用活動をしているのか。職員を確保するために具体的に何をしているのか。そこが見られる制度だと考えたほうがよいです。
指定権者への報告と求人票の添付が必要であること
今回の特例では、職員確保に係る取り組みや、一時的に職員を確保できないやむを得ない事情であることを、別紙様式に記載し、人員欠如が生じた月の翌月までに速やかに都道府県知事に報告することが求められています。また、報告時点で有効な求人票の写しを添付することも示されています。
ここは、施設責任者や運営側にとって非常に重要です。
僕の管理者時代の経験でも、欠員が出た時点ですぐに市役所へ連絡したことは大きかったと思っています。市役所から「大丈夫」と言われたわけではありませんが、少なくとも連絡があったことは記録に残りました。
このような対応を後回しにすると、いざという時に「きちんと対応していた」と説明できなくなる可能性があります。
施設責任者・運営側が注意すべきポイント
欠員が出た時点で記録と報告準備を始める必要がある
施設責任者や運営側がまず注意すべきことは、勝手な思い込みをしないことです。
「たぶん大丈夫だろう」
「1日だけだから問題ないだろう」
「今までも何とかなっていたから大丈夫だろう」
このような感覚で判断するのは危険です。
僕がデイサービスで管理者をしていたとき、ペナルティにならなかったのは、欠員が出ると分かった瞬間に、すぐ役所へ連絡したからではないかと僕は思っています。
当時は、明確な特例制度があったわけではありません。しかし今は、一定の条件を満たせば、制度として減算の猶予が示されています。だからこそ、これから先は「温情で見逃してもらえる」という考え方は、より危険になると思います。
欠員が出てから慌てるのではなく、人員を満たせなくなる可能性が見えた段階で、早めに相談することが大切です。
その時点で、自分たちの事業所の状態、行政や自治体の認識、制度上の考え方がずれていないかを確認しておく必要があります。
求人を出しているだけでは不十分になる可能性がある
職員確保に向けた取り組みが必要だからといって、求人を出していればそれで十分とは限りません。
どこに求人を出しているのか。どのような条件で募集しているのか。ハローワークや福祉人材センターなどを活用しているのか。民間紹介会社を利用する場合、その選び方に問題はないのか。
そうした部分も含めて、事業所として採用に向き合っているかが問われる可能性があります。
制度上も、現場感覚としても、ただ求人を出しているだけでは不十分になる可能性があります。
ハローワークや福祉人材センターなどの活用が重要になる
通知では、公共職業安定所や福祉人材センターなどの活用が示されています。
これは、事業所側にとっても重要なポイントです。
普段から無料職業紹介事業を活用し、求人を出し、採用活動の記録を残しておくことで、いざという時に「職員確保に向けた取り組みをしていた」と説明しやすくなります。
もちろん、ハローワークに求人を出せば必ず採用できるわけではありません。福祉人材センターを使えばすぐに人が来るわけでもありません。
それでも、事業所としてやるべきことをやっているかどうかは、制度上も現場への説明上も重要です。
せっかくこのような救済措置のような制度ができても、必要な手続きをしていなければ、いざという時に生かせない可能性があります。
職員に無理をさせて帳尻を合わせる対応は危険
今回の特例で、僕が危惧していることがあります。
それは、「募集をかけているから」「突発的な事情だから」という理由をつけて、運営側や会社側が、人員が十分でない状態のまま職員に無理を強いる可能性です。
当然、特例を前提にした慢性的な人員不足は認められないと考えるべきです。
一方で、一生懸命採用に動いていても、必ず特例が認められるとは限りません。だからこそ、「本気で動いていれば大丈夫だろう」という考え方も危険です。
職員に無理をさせて帳尻を合わせる対応は、本来あってはいけません。
現場では、人員が足りないと、残っている職員に負担が集中します。休憩が取りにくくなり、記録が後回しになり、利用者対応にも余裕がなくなります。事故やミスのリスクも上がります。
通知でも、一時的に職員を確保できない場合であっても、一部の職員へ過度な業務負担とならないよう、適正な労働時間管理を行い、体制整備を図るよう努めることが示されています。
制度ができたからといって、職員に無理をさせてよい理由にはなりません。
特例を前提にした慢性的な人員不足は認められない
一番あってはいけないのは、このルールがあることで運営側の気が緩むことです。
今までは、人員基準を絶対に満たさなければいけないという緊張感があった。だから必死に人員を確保し、ギリギリでも何とか運営していた。
それなのに、この特例ができたことで、「多少足りなくても何とかなる」と考えてしまう事業所が出てくるとすれば、それは本末転倒です。
この特例は、真面目に人員を確保しようとしている事業所が、突発的でやむを得ない事情に直面したときの救済策として考えるべきです。
最初から特例を当てにして、ギリギリの人員で回し続けるための制度ではありません。
現場で働く介護職員に関係するポイント
急な欠員時に現場負担が増える可能性がある
現場で働く介護職員にとっても、今回の制度は無関係ではありません。
人員基準の話は、管理者や法人本部だけの話に見えるかもしれません。しかし、実際に人が足りない状態で働くのは現場職員です。急な欠員が出れば、あらゆる業務に影響が出ます。
「制度上は猶予される可能性がある」としても、その日の現場が楽になるわけではありません。
職員一人ひとりにかかる負担は、確実に増える可能性があります。
減算猶予は職員に無理をさせてよい制度ではない
今回の特例は、職員に無理をさせるための制度ではありません。
職員が無理をしてギリギリで回している状態を、運営側が「これで回っているから大丈夫」と思ってしまうことがあります。
しかし、それは職員の努力で何とか持っているだけであって、職場の体制が健全だという意味ではありません。
人員不足の説明が曖昧な職場には注意が必要
現場職員は、人員不足を感じているとき、今回の特例についてもある程度知っておいたほうがよいと思います。
もし職場で、「人員が足りなくても問題ないらしい」「今回そういうルールができたらしい」といった曖昧な説明がされているのであれば、それはかなり注意が必要です。
今回の特例は、人員不足を広く認める制度ではありません。条件を満たした場合に限り、減算の適用が猶予される可能性があるという話です。現場側からも、「それは人員不足でも大丈夫という意味ではないのではないか」と確認する必要がある場面もあると思います。
人員不足が続き、職員に負担がかかり続ければ、現場は疲弊します。さらに、もし事業所が減算の対象になれば、結果的に事業所の収入にも関係し、働く職員の待遇や職場環境にも影響する可能性があります。
現場職員も「なぜ人が足りないのか」を見ておく必要がある
現場職員も、ただ「人が足りない」と感じるだけでなく、なぜ人が足りないのかを見ておく必要があります。
人員が満たされていない状態はもちろん問題ですが、ギリギリ足りている状態も、現場感覚では人員不足に近い場合があります。
毎日どうにか回っている。でも、誰か一人休んだら一気に現場が崩れる。そのような状態を放置しているなら、職員は説明を求めてもよいと思います。
今回のようなルールができたことによって、職員がさらに負担を強いられるのであれば、それはおかしな話です。
この特例で介護事業所はどう変わるのか
一時的な欠員に対しては運営継続の余地が広がる
今回の特例によって、一時的な欠員に対しては、介護事業所が運営を立て直す余地が広がる可能性があります。
これまでは、急な欠員が出ると、現場も管理者もかなり追い詰められることがありました。特に小規模な事業所では、たった一人の欠員でも影響が大きくなります。そのような中で、一定の条件を満たせば減算の猶予があり得るというのは、運営側にとって大きな意味があります。
ただし、それはあくまでも一時的な欠員に対する話です。
慢性的な人員不足を抱えたまま、現場職員の努力だけで回し続けるような状態を正当化するものではありません。
採用活動の実態がこれまで以上に見られるようになる
今回の特例では、職員確保に向けた取り組みが重要になります。
そのため、今後は「採用活動をしているかどうか」だけでなく、「どのように採用活動をしているのか」も見られやすくなるのではないかと思います。
こうした部分が、制度対応としても、現場職員への説明としても重要になります。
人員不足への対応力が事業所の差になりやすい
- 介護事業所の差は、平常時よりも、問題が起きた時に出やすいです。
- 人員が足りなくなった時、すぐに行政へ相談する事業所もあれば、現場に無理をさせてごまかそうとする事業所もあります。
- 採用活動を本気で進める事業所もあれば、「求人は出している」と言うだけで、実際には現場任せにする事業所もあります。
- 今回の特例によって、人員不足への対応力が、より事業所の差として表れやすくなる可能性があります。
- 施設責任者や運営側は、制度を知っているだけでは不十分です。現場の負担を見ながら、行政とも確認し、採用活動を進め、必要な記録と報告を行う必要があります。
誤解してはいけないこと
人員不足でも減算されない制度ではない
今回の特例について、最も誤解してはいけないのは、「人員不足でも減算されない制度」ではないということです。
この違いは非常に大きいです。
「減算されない」と言い切ってしまうと、制度の意味を大きく間違えることになります。
すべての欠員が「やむを得ない事情」になるわけではない
職員が足りないからといって、すべてが「やむを得ない事情」になるわけではありません。
急な体調不良や突発的な事情であれば、やむを得ないと判断される可能性はあると思います。
一方で、以前から退職が分かっていたのに採用活動をしていなかった、慢性的に人員不足なのに放置していた、ギリギリの配置を続けていたという場合まで、同じように扱われるとは考えないほうがよいです。
ここは、施設責任者や運営側が都合よく解釈してはいけない部分です。
利用者サービスの質を下げてよいという意味ではない
減算の猶予があるかどうかと、利用者サービスの質を下げてよいかどうかは別問題です。
人員が足りない状態では、どうしても業務に余裕がなくなります。見守りが薄くなったり、声かけが減ったり、記録が後回しになったり、職員の表情にも余裕がなくなったりします。
しかし、利用者から見れば、その日も同じようにサービスを受けに来ています。
制度上の猶予があるからといって、利用者へのサービスの質が下がってよいわけではありません。
職員の負担増を当然としてよい制度ではない
今回の特例は、職員の負担増を当然としてよい制度でもありません。
一時的に人員が足りない時、現場職員が協力する場面はあると思います。介護現場では、どうしても助け合いが必要になることがあります。
ただし、それを運営側が当たり前にしてはいけません。
介護現場目線で見る今回の制度変更
現場では「一人足りない」が大きな負担になる
現場では、「一人足りない」ということが、とても大きな負担になります。
これは、単純に人数が一人減るという話ではありません。その一人が担っていた見守り、介助、記録、送迎、家族対応、職種ごとの役割が、残った職員に分散されるということです。
僕自身、二つの事業所を統括していたとき、片方の事業所で生活相談員の退職者が出たことがありました。その時は、もう一つの事業所の生活相談員に、二事業所兼務のような形で関わってもらい、人員を満たすようにしたことがあります。
もちろん、新しい職員が入ってくるまでの一時的な対応でした。
その職員は非常に協力的な職員で、こちらとしては本当にありがたかったです。しかし、今振り返ると、その職員にとってはかなり負担だったのではないかと思います。
本人は口に出しませんでした。それでも、二つの事業所に関わるということは、精神的にも業務的にも負担が増えます。
現場では、このように一人足りないことが、残された職員に大きくのしかかります。
もし今回の制度によって、無理な兼務や過度な負担から解放される介護職員が出てくるのであれば、この制度には大きな意味があると思います。
制度上の猶予と現場のしんどさは別問題
制度上、減算の猶予が認められる可能性があることと、現場がしんどくないことは別です。
管理者や運営側は、制度対応ができると少し安心するかもしれません。しかし、現場で働く職員からすれば、その日一人足りないこと自体は変わりません。
そうした現場のしんどさは、制度上の猶予だけでは解決しません。
だからこそ、施設責任者や運営側は、制度の説明だけで終わらせてはいけないと思います。
責任者には制度対応だけでなく現場への説明も求められる
施設責任者には、行政への報告や求人票の添付など、制度上の対応が求められます。
しかし、それだけでは足りません。
現場職員に対して、今どういう状況なのか、なぜ人員が足りないのか、どのように採用活動をしているのか、いつまでこの状態が続く見込みなのかを説明する必要があります。
現場職員は、何も説明されないまま負担だけ増えると、不信感を持ちます。
「会社は本当に人を採る気があるのか」
「自分たちが無理をすれば、このままでいいと思われているのではないか」
「この状態がいつまで続くのか」
こうした不安が積み重なると、職場への信頼は下がります。
制度対応と同じくらい、現場への説明は大切です。
職員側は職場の人員不足への向き合い方を見る材料になる
現場職員にとって、今回の制度は、職場の人員不足への向き合い方を見る材料にもなります。
人員不足が起きたとき、運営側がどう動くのか。
すぐに採用活動をするのか。
行政へ相談するのか。
現場へ説明するのか。
職員の負担を減らす工夫をするのか。
それとも、「何とか回して」と現場に丸投げするのか。
この違いは大きいです。
人員不足は、どの事業所でも起こり得ます。しかし、その時の対応には差が出ます。
今回の特例を、事業所を守るためだけでなく、現場職員を守るためにも使えるかどうか。そこが、これからの介護事業所には問われると思います。
まとめ
今回の特例は一時的な救済策であり、人員不足の免罪符ではない
今回のルールができたことによって、突発的でやむを得ない人員不足に対して、一定の条件のもとで減算の猶予が認められる可能性が出てきました。
これは、介護事業所にとって大きな意味があります。
ただし、このルールが人員不足の免罪符になってはいけません。
人員が足りなくてもよい制度ではありません。慢性的な人員不足を正当化する制度でもありません。
あくまでも、普段から人員基準を守り、採用活動や体制整備に真面目に取り組んでいる事業所が、突発的でやむを得ない事情に直面したときの救済策として見るべきです。
運営側には採用努力と労務管理が求められる
施設責任者や運営側には、これまで以上に丁寧な対応が求められます。
そして何より、現場職員に無理をさせて帳尻を合わせないことが大切です。
今回の特例を使うかどうか以前に、人員不足にならないよう、普段から体制を整えることが運営側の役割です。
現場職員にとっては、職場の健全性を見極める一つの材料になる
現場で働く介護職員にとっても、今回の制度は知っておく価値があります。
なぜなら、人員不足に対する職場の向き合い方が見えるからです。
急な欠員が出たとき、運営側がきちんと説明し、採用活動を進め、職員の負担を考えて動く職場なのか。それとも、制度を都合よく解釈し、現場に無理をさせる職場なのか。
その違いは、働き続けられる職場かどうかにも関わってきます。
今回のルールができたことが、逆に職員の負担になるようなことがあっては本末転倒です。
この制度が、事業所を守るためだけではなく、働く職員を守る方向にも使われることが大切です。
人員不足があっても大丈夫という考えではなく、今まで通り、人員不足にならないように運営側がしっかり体制を整える。そのうえで、万が一、やむを得ない事情で人員を満たせなかった時に、結果として減算を避けられる可能性がある。
それくらいの位置づけで考えるべきだと思います。
この制度が、真面目に運営している介護事業所を救うものになり、職員に無理を押しつけるために使われないことを願っています。
