介護現場はどう変わる?「持続可能な社会保障制度の構築 財政各論Ⅱ」から考える【介護職人が解説】

介護職人ラボ財政各論Ⅱ
目次

介護保険制度の見直しは、介護職と事業所に何を意味するのか

今回の話は、介護報酬、介護職員の賃上げ、生産性向上、軽度者向けサービスの見直し、保険外サービスの活用に関わる内容です。介護職員だけでなく、介護事業所の経営者、管理者、利用者、家族にも関係する話です。

ただし、最初に注意しておきたいのは、すべてがすでに決定した話ではないということです。令和8年度には介護従事者への賃上げ措置が示されていますが、令和9年度介護報酬改定に向けた制度全体の見直しは、検討段階の内容も多く含まれています。財務省資料では、要介護1・2の訪問介護や通所介護について、地域支援事業への移行を目指すことが考えられるとされていますが、改革工程では2027年度までの間に市町村の意向や利用者への影響などを踏まえながら検討し、結論を出す段階とされています。

参考:財務省 持続可能な社会保障制度の構築

そのため、「要介護1・2のサービスがすぐになくなる」と断定してはいけません。一方で、介護保険制度の財源、人材不足、事業所経営、職員の賃金に関わる重要な論点であることは間違いありません。

今回の話は「介護報酬」「賃上げ」「生産性向上」「サービス見直し」に関わる

今回の資料で中心になっているのは、介護保険制度を今後どう維持していくのかという話です。その中で、介護報酬をどうするのか、介護職員の賃上げをどう進めるのか、事業所の生産性をどう上げるのか、軽度者向けサービスをどう見直すのかが論点になっています。

介護報酬とは、介護事業所が介護保険サービスを提供したときに受け取る報酬のことです。利用者が支払う自己負担分と、介護保険から支払われる分を合わせたものが、事業所の収入の中心になります。

一般企業であれば、物価が上がったり人件費が上がったりしたときに、サービス料金を見直すことができます。もちろん簡単ではありませんが、価格を上げる余地はあります。

しかし介護事業所は、国が決めた介護報酬の単価をもとに運営しています。利用者の満足度を高めても、職員が一生懸命働いても、事業所が自由に料金を上げられるわけではありません。

ここが、介護事業の難しさです。

関係するのは介護職員だけでなく、介護事業所・経営者・利用者家族も含まれる

この話は、介護職員の給料だけの話ではありません。介護事業所の経営、利用者のサービス利用、家族の介護負担にも関わります。

介護報酬が十分に上がらなければ、事業所は職員の給料を上げにくくなります。人件費だけでなく、食材費、光熱費、車両費、消耗品費、システム費なども上がっているからです。

一方で、介護職員の給料が上がらなければ、人材確保は難しくなります。現場はすでに人手不足です。職員が足りない状態で運営を続ければ、残った職員に負担が集中します。

利用者や家族にとっても、この話は他人事ではありません。事業所が減れば、使えるサービスの選択肢が減ります。軽度者向けサービスの見直しが進めば、今まで使えていたサービスの形が変わる可能性もあります。

まだ決定事項ではなく、今後の制度改正に向けた検討段階である

今回の資料を読むときに大事なのは、決定事項と検討段階を分けることです。

令和8年度の措置として、介護従事者に月1万円相当の賃上げを行う措置が示されています。また、生産性向上などに取り組む事業者の介護職員には、追加で月0.7万円相当の上乗せ措置も示されています。ただし、この上乗せは一定期間の措置として説明されているため、すべての職員の基本給が恒久的にその分上がるとまでは断定できません。

一方で、要介護1・2への訪問介護・通所介護を地域支援事業へ移行する話は、まだ検討段階です。財務省資料では、移行を目指すことが考えられるとされていますが、2027年度までの間に検討して結論を出すとされています。

だからこそ、必要以上に不安をあおる必要はありません。ただし、議論に上がっている以上、介護職員も事業所も無関心ではいられません。

なぜ介護保険制度の見直しが議論されているのか

介護保険制度の見直しが議論される背景には、人材不足、財源不足、物価上昇、事業所経営の厳しさがあります。制度を続けるための議論である一方で、現場から見ると「本当に現場を見ているのか」と感じる部分もあります。

介護人材不足と賃金改善の必要性がある

介護現場では、ずっと人材不足が続いています。求人を出しても人が来ない、採用しても長く続かない、少ない人数で現場を回しているという事業所は珍しくありません。

その原因の一つが、賃金の低さです。

介護職は、身体的にも精神的にも負担の大きい仕事です。食事介助、入浴介助、排泄介助、移乗介助、認知症対応、家族対応、記録業務など、求められる仕事は多岐にわたります。

それでも、求人を見ると、介護職員の時給は地域の最低賃金に近い水準で出ていることが少なくありません。処遇改善加算などがあっても、それを含めてようやく最低賃金を上回るような形になっている求人もあります。

国は介護職員の処遇改善を進めると言っています。確かに、何もないよりは良いです。しかし、現場で働いている側から見ると、「それで本当に生活できる賃金になるのか」という疑問が残ります。

介護給付費の増加により、制度の持続性が問われている

介護サービスの需要は、今後も増えていきます。高齢者が増えれば、介護保険サービスを使う人も増えます。そうなれば、介護給付費も増えていきます。

国としては、介護保険制度を続けるために、財源をどうするのかを考えなければいけません。重度の人に給付を重点化する、地域の多様な人材を活用する、保険外サービスも組み合わせるという発想は、財政面から見れば理解できる部分もあります。

ただし、介護は数字だけで考えられる仕事ではありません。

介護保険制度は、単に重度になった人を支えるためだけの制度ではありません。できるだけ介護状態を悪化させないように支える役割もあります。軽度のうちから関わることで、生活リズムを保ち、身体機能の低下を防ぎ、家族の負担を減らす意味があります。

そこを削ってしまえば、短期的には給付費を抑えられても、長期的には重度化を早める可能性もあります。

現場の努力だけでは解決できない構造的な問題がある

介護事業所は、努力していないわけではありません。むしろ、多くの事業所はかなり無理をしながら運営しています。

職員は少ない人数で現場を回し、管理者はシフト調整、家族対応、職員対応、請求業務、加算管理まで抱えています。経営者は、介護報酬が大きく上がらない中で、人件費と物価上昇に対応しなければいけません。

僕自身、2003年から介護業界に関わってきました。介護保険制度が始まったのは2000年です。僕の感覚では、介護サービスは公的なものから民間へ事業が移っていったものだと受け止めてきました。

しかし、民間事業として運営しているにもかかわらず、価格は自由に決められません。一般企業のように、良いサービスを作ったから単価を上げるということができません。

この構造の中で、「生産性を上げろ」「サービスを見直せ」「賃上げをしろ」と言われても、現場や事業所だけで解決できる範囲には限界があります。

介護職員の賃上げは今後どう考えられているのか

介護職員の賃上げは必要です。ただし、今の賃上げ策が現場の実感に追いついているかというと、かなり疑問があります。

介護報酬改定と処遇改善は今後も重要な論点になる

介護職員の賃上げを進めるうえで、介護報酬改定と処遇改善加算は重要です。

処遇改善加算とは、介護職員などの賃金改善を目的に、一定の要件を満たした事業所に支払われる加算です。事業所は要件を満たし、計画を作り、実績を報告し、そのうえで職員へ配分します。

制度としては、職員の給料を上げるための仕組みです。しかし、現場や事務方から見ると、書類作成や管理の負担がかなりあります。

本来であれば、基本報酬をしっかり上げる方がわかりやすいはずです。すべての介護サービスに対して介護報酬が上がれば、事業所の収入が増え、そこから人件費に回しやすくなります。

ところが、処遇改善加算のように申請や管理が必要な仕組みになると、事業所ごとの差が出ます。職場改善に取り組んでいることと、処遇改善加算の申請事務をきちんとこなせることは、必ずしも同じではありません。

賃上げは歓迎される一方で、事業所経営への影響も大きい

介護職員の賃上げ自体は、当然必要です。低賃金のまま人材確保をしようとしても限界があります。

ただし、賃上げを事業所に求めるなら、その分の原資が必要です。介護事業所は、売上を自由に増やせる業種ではありません。定員があり、単価が決まり、人員基準もあります。

令和6年度介護報酬改定では、改定率は全体で+1.59%でした。内訳は、介護職員の処遇改善分が+0.98%、その他の改定率が+0.61%です。さらに改定率の外枠として、処遇改善加算の一本化による賃上げ効果や、光熱水費の基準費用額の増額による介護施設の増収効果として+0.45%相当が見込まれ、合計すると+2.04%相当の改定と説明されています。

参考:厚生労働省 全国介護保険・高齢者保健福祉担当課長会議資料

ここで注意したいのは、単純に「介護報酬が2.04%上がった」とだけ書くと不正確になることです。正式な改定率は+1.59%で、外枠の効果を含めると+2.04%相当という整理になります。

一方で、最低賃金については、政府が2020年代に全国平均1500円という目標を掲げています。2024年度の最低賃金全国加重平均額は1055円であり、そこから1500円を目指すなら、単純計算でも年度7%程度とかなり高いペースの引き上げが必要になります。

参考:厚生労働省 令和7年度地域別最低賃金額改定の目安について

介護報酬の上昇が人件費や物価の上昇に見合わなければ、事業所の持ち出しが増えます。人件費率が年々上がり、利益が削られ、赤字に近づいていきます。

僕が関わっている事業所でも、人件費の割合は年々重くなっています。処遇改善で一部は支えられていても、それだけで補いきれる感覚はありません。光熱費も物価も上がる中で、介護報酬の上がり方が小さいと、事業所はかなり厳しくなります。

現場目線では「本当に手取りが増えるのか」が重要になる

介護職員にとって大事なのは、制度上いくら措置されたかではなく、自分の手取りが本当に増えるかです。

資料上は、令和8年度に介護従事者へ月1万円相当の賃上げ措置が示されています。さらに、生産性向上などに取り組む事業者の介護職員には上乗せ措置も示されています。ただし、実際に給与へどう反映されるかは、制度の詳細や事業所ごとの運用を見る必要があります。基本給として恒久的に増えるのか、手当として支給されるのか、一時的な措置なのかによって、現場の受け止め方は変わります。

介護職員からすれば、物価が上がり、生活費が上がり、最低賃金も上がっていく中で、その金額で十分なのかという話になります。

介護職員は、やりがいがあるからお金はいらないと思っているわけではありません。

利用者に感謝されることは、確かに大きなやりがいです。家族から「助かりました」と言われることも、介護職の支えになります。僕自身も、利用者と関わることは楽しいですし、介護の仕事は素晴らしい仕事だと思っています。

ただ、それと給料の話は別です。やりがいがあるから低賃金でいい、という話にはなりません。

生産性向上は介護現場に何をもたらすのか

生産性向上は必要ですが、介護現場では限界があります。特に、人と人との関わりそのものがサービスの中心になる仕事では、効率化だけで解決できない部分があります。

ICT・介護ソフト・記録業務の効率化が求められやすくなる

介護現場でも、ICTや介護ソフトの活用は進んできました。ICTとは、パソコン、タブレット、介護ソフト、通信機器などを使って業務を効率化する仕組みのことです。

記録を紙で書くより、タブレットで入力した方が早い場面はあります。情報共有もしやすくなります。請求業務や記録管理も、介護ソフトがあることでかなり効率化できます。

僕が介護業界に入った頃は、「まだこんなことを紙でやっているのか」と思う場面が多くありました。そこから考えると、タブレットや介護ソフトが普及してきたこと自体は、明らかに前進です。

今、AIを使って事務作業をすると、調べものや文章作成、情報の確認がかなり楽になります。パソコンの前で行う業務であれば、生産性はかなり上がります。

ただし、それをそのまま介護現場に当てはめられるかというと、話は別です。

業務効率化が進めば、職員の負担軽減につながる可能性がある

業務効率化がうまくいけば、職員の負担は減ります。記録にかかる時間が減れば、その分、利用者と関わる時間を増やせます。申し送りがスムーズになれば、情報共有のミスも減ります。

見守りセンサーや介護ロボットも、使い方によっては有効です。特養や老健のように、夜間の見守りや移乗介助の負担が大きい現場では、テクノロジーが職員を助ける場面はあると思います。

財務省資料でも、生産性向上、収益増加、賃上げという好循環のイメージが示されています。見守り、移乗、介護記録を支援する機器の活用や、経営の協働化・大規模化によって、対応可能な利用者が増え、収益増加と賃上げにつながるという考え方です。

この方向性自体は、まったく否定するものではありません。使えるものは使うべきです。介護職員の負担が減るなら、ICTも介護ロボットも導入した方がいいです。

ただし、現場に合わない効率化は逆に負担を増やすこともある

問題は、介護のすべてを効率化で解決できるように考えてしまうことです。

介護は、人を相手にする仕事です。高齢者を「もの」として考えるなら、効率化はどこまでも進められるかもしれません。食事を運ぶ、着替えを手伝う、見守る、声をかける。そのすべてを機械やロボットに任せれば、生産性は上がるかもしれません。

しかし、自分が年を取り、家族と会える時間も少なくなり、施設で過ごす時間が長くなったときに、そばに来るのがいつもロボットだけだったらどうでしょうか。

食事を持ってくるのもロボット。お茶を持ってくるのもロボット。着替えを手伝うのもロボット。そこに人が関わらない世界になれば、効率は良くなるかもしれません。

でも、それが介護の目指す未来なのかという疑問があります。

スーパーのセルフレジや倉庫内作業の自動化とは違います。レジの本来の役割は精算です。倉庫のレーン作業は、物を運ぶことが目的です。しかし介護は、人との関わりそのものがサービスの中に入っています。

だから、介護現場の生産性向上には限界があります。特に、要介護1・2の人を支える訪問介護や通所介護では、会話、見守り、生活の変化への気づき、外出機会、人とのつながりが大きな意味を持ちます。そこを単純に効率化しようとすると、介護の大事な部分が削られる可能性があります。

介護事業所にはどのような対応が求められるのか

介護事業所には、経営改善、生産性向上、人材確保が求められています。ただし、現場の努力だけでは限界があり、制度側の支えがなければ事業所は疲弊していきます。

小規模事業所ほど人材確保と経営の両立が難しくなる

小規模事業所は、人材確保と経営の両立が難しくなりやすいです。大規模法人に比べて、採用力、事務体制、資金力に差があるからです。

ただし、厳しいのは小規模事業所だけではありません。中規模以上の事業所でも、介護報酬が十分に上がらず、人件費と物価だけが上がれば経営は苦しくなります。

僕が関わっている事業所でも、稼働率が高くても経営は楽ではありません。今まで十数年間運営できてきた事業所で、平均稼働率が80%を割らない状態でも、利益はかなり薄くなっています。去年の決算では、事業所単位で見るとギリギリ黒字というレベルでした。

あと一人介護職員を雇っていれば、事業所単位では赤字になっていた可能性がある。そのくらいの利益しか残っていないのが現実です。

これは、事業所の努力が足りないという一言で片付けられる話ではありません。職員も頑張っています。事業所も頑張っています。それでも、制度と報酬の枠組みが厳しければ、限界があります。

協働化・大規模化・経営改善が今後の論点になる

今後は、事業所の協働化や大規模化がさらに論点になると考えられます。協働化とは、複数の事業所や法人が連携し、事務や採用、研修、物品購入などを効率化することです。

大規模化すれば、事務部門を持ちやすくなります。加算の申請、研修体制、ICT導入、採用活動なども進めやすくなります。経営の安定という意味では、大規模法人の方が有利な場面は多いです。

一方で、小規模事業所には小規模事業所の良さがあります。地域に密着し、利用者や家族との距離が近く、柔軟に対応できる事業所もあります。

しかし制度が大規模化を前提に進んでいくと、小規模事業所はどんどん苦しくなります。結果として、地域の選択肢が減る可能性があります。

介護職員の立場から見ると、今後は安定した法人、大規模な職場へ転職した方が堅実だという判断になっていくかもしれません。これは現実的な選択として理解できます。

ただ、働きやすい小規模事業所が制度上の厳しさで続けられなくなるとしたら、それはとても残念な未来です。

現場職員に制度変更のしわ寄せが来ない仕組みづくりが必要になる

制度変更があるたびに、現場職員にしわ寄せが行くことがあります。

新しい加算ができる。新しい書類が増える。記録方法が変わる。研修が増える。説明責任が増える。管理者や生活相談員、ケアマネジャー、事務職の負担が増える。

処遇改善加算も、本来は職員の賃金を上げるための制度です。しかし、その申請や管理のために事務負担が増えます。事業所によっては、そのための人員を置かなければ回らないこともあります。

職員の給料を上げるための制度なのに、その制度を扱うために別の人件費が必要になる。これは本末転倒になりかねません。

だからこそ、事業所は制度変更に対応しながらも、現場に無理を押しつけない仕組みを作る必要があります。そして国も、現場が使いやすい制度にする必要があります。

軽度者向けサービスの見直しは、現場にどう影響する可能性があるか

軽度者向けサービスの見直しは、介護保険制度の根本に関わる話です。要介護1・2の訪問介護や通所介護がどう扱われるかは、現場にも事業所経営にも大きく影響します。

要介護1・2の生活援助や通所系サービスが論点になっている

財務省資料では、軽度者、つまり要介護1・2に対する訪問介護・通所介護について、地域支援事業への移行を目指し、段階的に生活援助型サービスをはじめ、地域の実情に合わせた多様な主体によるサービス提供を可能にすることが考えられるとされています。

地域支援事業とは、市町村が中心となって、地域の実情に応じた介護予防や生活支援を行う事業です。すでに要支援1・2の訪問介護・通所介護は、2018年3月末に地域支援事業へ移行しています。

今回の議論は、その考え方を要介護1・2にも広げる可能性があるという話です。

ただし、ここで注意が必要です。これは「要介護1・2の人がすぐにデイサービスや訪問介護を使えなくなる」という意味ではありません。現段階では、検討して結論を出す段階です。

介護保険サービスの範囲が変わる可能性がある

もし要介護1・2の訪問介護や通所介護が地域支援事業へ移行する方向になれば、サービスの範囲や提供方法が変わる可能性があります。

地域の実情に合わせるという考え方は、一見すると柔軟で良いものに見えます。住民主体の活動、ボランティア、通いの場、買い物支援、移動支援などが広がれば、高齢者の社会参加につながる面もあります。

しかし、介護現場から見ると不安もあります。

要介護1・2の人は、軽度と呼ばれていても、支援が不要な人ではありません。認知症の初期症状がある人、独居で生活リズムが崩れやすい人、家族の介護負担が大きい人、身体機能の低下が進み始めている人もいます。

デイサービスや訪問介護は、単に入浴や掃除をするだけのサービスではありません。生活の変化に気づき、状態悪化を防ぎ、家族の負担を軽くする役割があります。

介護保険法の考え方からすれば、本当に重度になってから使うだけでなく、重度化を防ぐために軽度の段階で支えることも重要です。

ただし「すぐにサービスがなくなる」と断定してはいけない

この話は、毎回のように議論に上がります。要介護1・2のサービス見直しについては、前回も前々回も論点になってきました。

それでも、現実には簡単に進んでいません。なぜなら、実際に地域社会へ照らすと、影響が大きいからです。

要介護1・2の人がデイサービスや訪問介護を使いづらくなれば、利用者本人だけでなく家族にも影響します。事業所にも影響します。特に、軽度者の利用が多い通所介護や訪問介護では、経営に大きな打撃になる可能性があります。

だからこそ、「すぐに使えなくなる」と断定するのは間違いです。

ただし、話が出ていること自体は重く受け止めるべきです。制度の方向性として、重度者への給付を重点化し、軽度者向けサービスを地域支援事業や保険外サービスへ寄せていく考え方が示されているからです。

保険外サービスの活用は介護事業所にとってチャンスになるのか

保険外サービスの活用は、事業所にとって収益の選択肢になる可能性があります。ただし、利用者負担や地域差、現場負担を考えると、簡単に「チャンス」とは言い切れません。

利用者ニーズに応える選択肢が広がる可能性がある

保険外サービスとは、介護保険の対象外となるサービスを、利用者が自己負担で利用するものです。

たとえば、訪問介護の後にペットの世話をする、同居家族の買い物をする、通所介護の利用中に個人の希望する外出支援や物販サービスを組み合わせるといった例が資料でも示されています。

介護保険サービスは、できることとできないことが明確に分かれています。利用者や家族から見れば、「そこまでお願いしたい」と思っても、介護保険では対応できないことがあります。

保険外サービスを組み合わせることで、利用者の細かなニーズに応えやすくなる可能性はあります。

介護保険だけに頼らない収益づくりにつながる可能性がある

事業所にとっても、保険外サービスは収益の多様化につながる可能性があります。

介護保険だけで運営していると、収入は介護報酬に大きく左右されます。報酬改定で単価が変われば、経営に直接影響します。

保険外サービスを持つことで、介護保険だけに頼らない収益を作れる可能性があります。資料でも、保険内と保険外のサービスを柔軟に組み合わせることは、利用者の多様なニーズに応えるだけでなく、事業者にとっても収益の多様化や経営基盤の強化に資するとされています。

ただし、これは理屈としてはわかりますが、実際にすべての事業所が簡単にできるわけではありません。

一方で、利用者負担・公平性・現場負担には注意が必要

保険外サービスを広げれば、利用者の自己負担は増えます。お金を払える人は追加サービスを使えるが、払えない人は使えないという差も生まれます。

また、自治体によってルールの解釈が異なる、いわゆるローカルルールの問題もあります。資料でも、自治体によって保険外サービスが認められないところがあるという声が紹介されています。

事業所側にも負担があります。保険内サービスと保険外サービスを明確に分け、利用者へ説明し、請求を分け、職員にもルールを共有しなければいけません。

介護保険外サービスを活用すること自体は、悪いことではありません。しかし、介護保険の財源を抑えるために保険外へ移していく流れが強くなれば、利用者負担が増え、事業所の運営も複雑になります。

保険外サービスは万能ではありません。

介護職員が今後見るべき職場のポイント

介護職員は、制度変更そのものを直接変えることは難しいです。ただし、自分の職場が制度変更にどう対応しているかを見ることはできます。

制度変更を理由に現場へ無理を押しつけていないか

介護職員がまず見るべきなのは、制度変更を理由に現場へ無理を押しつけていないかです。

「介護報酬が厳しいから仕方ない」
「人が足りないから仕方ない」
「生産性向上だからもっと効率よくやれ」

このような言葉だけで、現場の負担が増えている職場は注意が必要です。

制度が厳しいのは事実です。事業所経営が大変なのも事実です。しかし、その負担をすべて現場職員に押しつければ、職員は疲弊します。

介護職員が長く働くためには、経営の厳しさを説明するだけでなく、現場の負担をどう減らすかを考えている職場を選ぶ必要があります。

生産性向上が職員の負担軽減につながっているか

生産性向上という言葉が出たときは、それが本当に職員の負担軽減につながっているかを見るべきです。

タブレットを入れた。介護ソフトを変えた。見守り機器を導入した。これだけでは不十分です。

それによって記録時間が減ったのか。申し送りが楽になったのか。残業が減ったのか。利用者と関わる時間が増えたのか。職員の心理的負担が減ったのか。

ここまで見ないと、本当の意味での生産性向上とは言えません。

現場に合わないシステムを入れると、かえって手間が増えることもあります。入力項目が増え、確認作業が増え、紙とタブレットの二重運用になれば、負担は増えます。

生産性向上という言葉にごまかされず、実際に働きやすくなっているかを見ることが大事です。

賃上げや処遇改善の説明が現場にきちんと届いているか

処遇改善や賃上げについて、職員にきちんと説明している職場かどうかも大事です。

介護職員は、自分の給料がどのような考え方で決まっているのかを知る権利があります。処遇改善加算がどう配分されているのか、基本給に反映されているのか、手当として支給されているのか、賞与に含まれているのか。

もちろん、すべてを細かく公開するのは難しい部分もあります。しかし、何も説明がなく、職員が不信感を持つ状態は良くありません。

賃上げの制度があっても、現場に届いている実感がなければ意味がありません。介護職員は、制度名ではなく、実際の給与明細と生活の変化を見ています。

介護事業所経営者が今後考えるべきポイント

介護事業所の経営者は、制度に不満を持つだけでは運営を続けられません。ただし、現場に負担を押しつけるだけでも限界があります。

人材確保を報酬改定任せにしない

介護報酬が上がらないと賃上げが難しい。これは事実です。

しかし、人材確保を報酬改定任せにしているだけでは、職員は集まりません。職員は給与だけでなく、働きやすさ、人間関係、休みやすさ、管理者の考え方、現場の雰囲気も見ています。

報酬改定が不十分な中でも、できる限り職員に還元する姿勢は必要です。給与だけでなく、シフトの組み方、休憩の取り方、残業の管理、教育体制、相談しやすい環境づくりも人材確保に関わります。

介護職員の善意だけに頼る運営は、もう限界に来ています。

現場の負担を見ながらICTや業務改善を進める

ICTや業務改善は、現場の声を聞きながら進める必要があります。

経営者や管理者が良いと思って導入したものでも、現場で使いにくければ定着しません。むしろ、現場職員の負担になります。

大事なのは、何を導入するかではなく、何の負担を減らすために導入するかです。

記録時間を減らしたいのか。申し送りを楽にしたいのか。転倒リスクを早く把握したいのか。夜勤者の不安を減らしたいのか。目的がはっきりしていなければ、ICT導入は形だけになります。

生産性向上は、職員をさらに働かせるための言葉ではありません。職員の負担を減らし、利用者への関わりを守るために使うべきです。

制度変更を見越して、収益構造とサービス内容を見直す

事業所経営者は、制度変更を見越して収益構造を見直す必要があります。

介護保険サービスだけで安定して運営できるのか。保険外サービスを組み合わせられるのか。加算を適切に取得できているのか。人員配置は無理がないか。稼働率が高くても利益が残る仕組みになっているか。

特に、通所介護や訪問介護のように要介護1・2の利用者が多いサービスでは、今後の議論を注視する必要があります。

ただし、保険外サービスに頼れば解決するという単純な話でもありません。利用者負担、職員負担、自治体ルール、説明責任を考える必要があります。

事業所は、制度の変化に備えながらも、利用者と職員を置き去りにしない運営を考えなければいけません。

今回の情報を読むときに注意すべきこと

今回の資料は、介護業界の今後を考えるうえで重要です。ただし、財務省資料であること、検討段階の内容が含まれること、現場の実感とはズレがあることを踏まえて読む必要があります。

財務省資料は制度改正の方向性を考える材料である

財務省資料は、財政の視点から社会保障制度を見ています。そのため、介護現場の感覚とは違う書き方になることがあります。

財政を考えることは必要です。介護保険制度を続けるためには、給付費、保険料、公費負担、利用者負担のバランスを考えなければいけません。

しかし、財政の視点だけで介護を見れば、現場の人間からすると冷たく感じることがあります。

介護は、人を支える仕事です。数字だけで見れば効率化できるように見えても、実際には人の生活、家族の不安、職員の疲労、地域の支えが関係しています。

資料は制度の方向性を知る材料として読むべきです。ただし、資料に書かれた理屈がそのまま現場に当てはまるとは限りません。

財務省資料では、介護サービスの利益率について「過去や他産業と比較して高い水準」と整理され、サービス類型ごとの状況に応じて介護報酬を適正化する必要があるとされています。

しかし、個別の事業所で見ると、稼働率が高くても利益がほとんど残らないケースもあります。資料上の平均値と、現場の実感にはズレが出ることがあります。

決定事項と検討段階を分けて読む必要がある

今回の話で最も注意すべきなのは、決定事項と検討段階を混同しないことです。

令和8年度の賃上げ措置のように、具体的に示されている内容があります。一方で、要介護1・2の訪問介護・通所介護の地域支援事業への移行については、検討して結論を出す段階です。

「要介護1・2が介護保険から外れる」
「デイサービスが使えなくなる」
「訪問介護がなくなる」

このように断定するのは危険です。

ただし、検討されていること自体は事実です。だから、何も起きないと考えるのも違います。

介護職員も事業所も、必要以上に不安になるのではなく、制度の動きを見ながら備えることが大事です。

不安をあおるのではなく、今後の変化に備える視点で見ることが大切

介護業界は、今後も変化していきます。

介護職員の賃上げ、生産性向上、経営改善、軽度者サービスの見直し、保険外サービスの活用。どれも、現場に影響する可能性があります。

ただ、不安だけをあおっても意味がありません。

介護職員は、自分の職場が制度変更にどう対応しているかを見る。事業所経営者は、職員の負担と経営の両方を見ながら準備する。利用者や家族は、サービスがどう変わる可能性があるのかを冷静に知る。

そのために、今回の資料は読む価値があります。

介護職と事業所は、制度変更をどう受け止めるべきか

今回の制度見直しの話は、介護業界が大きな変化の時期に入っていることを示しています。介護職員も事業所も、「今まで通り」で済む時代ではなくなってきています。

介護業界全体が変化の時期に入っている

介護業界は、制度に大きく左右される業界です。

介護報酬が変われば、事業所の収入が変わります。加算の要件が変われば、現場の記録や運営方法が変わります。軽度者向けサービスの扱いが変われば、利用者構成も変わります。

今回の資料を見ると、国は介護報酬による賃上げだけでなく、生産性向上、経営の協働化・大規模化、保険外サービスの活用、軽度者向けサービスの見直しを進めたいのだと読み取れます。

これは、介護職員にも事業所にも大きな影響を与える可能性があります。

現場の負担と制度の持続性を両方見ていく必要がある

介護保険制度を続けるために、財源を考えることは必要です。人材不足の中で、効率化を考えることも必要です。

しかし、現場の負担を見ない制度改革は危険です。

介護職員は、すでに少ない人数で働いています。事業所は、物価高と人件費増の中で運営しています。利用者や家族は、今のサービスに生活を支えられています。

制度を持続させることは大事です。しかし、そのために現場が潰れてしまえば意味がありません。

僕は、介護報酬の上昇は最低賃金の上昇に近い感覚で考えるべきだと思っています。少なくとも、物価や人件費の上昇に対して、介護報酬の上がり方があまりに小さければ、事業所は持ちません。

介護職員の賃金を本気で上げるなら、処遇改善加算だけでなく、基本報酬そのものをしっかり上げる必要があります。

介護職員・事業所ともに「今の働き方と運営」を見直すきっかけになる

今回の話を見て、介護職員は自分の働き方を考える必要があります。

今の職場は、制度変更に対応できる職場なのか。職員の負担を見てくれているのか。賃上げや処遇改善について説明があるのか。生産性向上が本当に働きやすさにつながっているのか。

事業所も、今の運営を見直す必要があります。

介護保険だけに頼った収益構造で続けられるのか。職員の負担を減らす仕組みはあるのか。加算を取るための事務に追われすぎていないか。保険外サービスを行うなら、利用者と職員に無理がない形になっているか。

介護の仕事は、利用者に感謝されるやりがいのある仕事です。家族を支え、地域を支え、人の生活を支える大切な仕事です。

だからこそ、低賃金でも我慢すればいいという話ではありません。事業所が赤字でも頑張ればいいという話でもありません。職員の善意だけで成り立つ業界にしてはいけません。

介護職員が安心して働き続けられること。事業所が無理なく運営を続けられること。利用者が必要なサービスを受けられること。

制度見直しを考えるなら、この3つを同時に見なければいけないと思います。

目次