社会保障審議会介護保険部会(第135回)基本指針の構成について【介護職人が解説】

介護職人ラボ080707002

参考:厚生労働省 社会保障審議会介護保険部会(第135回)令和8年6月29日

目次

厚労省資料では2040年に向けた介護サービス体制が示されている

地域ごとに介護サービスの需要が変わることが前提になる

厚生労働省の「基本指針の構成について」では、第10期介護保険事業(支援)計画に向けて、2040年を見据えた介護サービス提供体制の考え方が示されています。

ここで重要なのは、単に「高齢者が増えるから介護サービスを増やす」という話ではありません。2040年にかけて、地域ごとに人口の動きや介護サービスの需要が変わっていくため、都道府県と市町村が中長期的な見込みを持ち、地域の実情に応じたサービス提供体制を考えていく必要がある、という内容です。

資料では、中山間・人口減少地域、大都市部、一般市等といった地域の類型を念頭に置くことも示されています。つまり、これからの介護は、全国どこでも同じ形で考えるのではなく、その地域でどのような高齢者が増え、どのようなサービスが必要になり、どのように人材を確保するのかを考えなければいけないという方向です。

人材確保・生産性向上・経営改善支援も重要な課題として示されている

この資料では、介護サービス基盤の整備だけでなく、人材確保、生産性向上、経営改善支援なども重要な項目として挙げられています。介護人材をどう確保するのか、テクノロジーをどう活用するのか、事業所の経営基盤をどう強くしていくのかも、今後の介護サービス体制を考えるうえで避けられないテーマです。

ただし、現場や事業所の目線で見ると、これは資料に書かれているほど簡単な話ではありません。地域の実情に応じたサービス提供体制と言えば聞こえはいいですが、実際には地域によって利用者の集まりやすさ、人材の集まりやすさ、移動距離、事業所の採算が大きく変わります。

そのため、この資料を読むときは、制度上の言葉をそのまま受け取るだけではなく、「それが介護事業所の運営にどう影響するのか」という視点で見ることが大事です。

地域差は制度上の話ではなく介護事業所の運営に直結する

地域によって利用者確保・職員確保・採算の条件が変わる

介護サービスは、地域差の影響を強く受ける仕事です。なぜなら、介護はインターネット上で完結するサービスではなく、実際にその地域で暮らしている高齢者に対して、人が動いて提供するサービスだからです。

利用者が多く住んでいる地域であれば、事業所の周辺に利用者が集まりやすく、送迎や訪問の効率もある程度保ちやすくなります。一方で、人口密度が低い地域では、利用者が点在しやすく、一人ひとりの自宅まで移動するだけでも大きな負担になります。

これは利用者確保だけの問題ではありません。職員確保にも関わります。介護職員から見れば、通勤しやすい地域、給与水準が高い地域、働きやすい事業所に人が集まりやすくなります。隣り合う地域でも、報酬や支援策、生活費、交通事情が違えば、人材の流れも変わります。

その結果、利用者が少ない、職員が集まらない、移動に時間がかかる、採算が取りにくいという問題が連鎖していきます。どれか一つだけが原因というより、複数の問題が重なって事業所運営を苦しくしていくのです。

人口密度が低い地域ほどサービス提供の負担が大きくなる

人口減少地域で介護サービスを続ける難しさは、単に「高齢者が少ない」という話ではありません。高齢者がいても、住んでいる場所が広い範囲に分かれていれば、サービス提供の負担は大きくなります。

たとえば、送迎や訪問が必要なサービスでは、利用者の自宅まで行く時間が長くなります。片道の移動時間が長くなれば、職員が現場で直接ケアに入れる時間はその分減ります。車の燃料代、車両管理、運転する職員の負担も増えます。

介護サービスは、利用者と関わっている時間だけで成り立っているわけではありません。移動、準備、記録、連絡、調整など、見えにくい仕事も多くあります。人口密度が低い地域では、その見えにくい負担がさらに大きくなりやすいのです。

施設系サービスであれば、利用者が施設に入居しているため、サービス提供の場所はある程度固定されます。一方で、在宅生活を支えるサービスは、利用者の暮らす場所に合わせて職員が動く必要があります。ここに地域差の影響が出やすくなります。

地域に合わせることは必要だが運営できる地域と難しい地域の差も出やすい

地域の実情に合わせた介護サービス体制を考えること自体は必要です。大都市部と人口減少地域では、介護サービスの需要も、人材確保の状況も、移動の負担も違います。同じ制度を同じ形で当てはめるだけでは、現実に合わない場面が出てきます。

ただし、地域に合わせるという考え方には注意も必要です。うまく体制を作れる地域と、そうでない地域の差が広がる可能性があるからです。行政の計画力、地域の事業所数、人材の集まりやすさ、医療機関との連携状況などによって、同じ方針でも実際の形は変わります。

つまり、「地域の実情に応じたサービス提供体制」という言葉は、前向きな言葉である一方で、現場から見るとかなり現実的な課題を含んでいます。地域に合わせる必要はある。しかし、地域によっては、合わせたくても人も事業所も足りないという状況が出てくる可能性があります。

移動を伴う介護サービスほど地域差の影響を受けやすい

送迎や訪問は人が暮らす場所に合わせて動く必要がある

地域差の影響が特に出やすいのは、送迎や訪問を伴う介護サービスです。デイサービスであれば利用者を自宅まで迎えに行き、サービス終了後に送り届けます。訪問介護であれば、職員が利用者の自宅へ直接向かいます。

このようなサービスでは、利用者がどこに住んでいるかがそのまま業務負担になります。近い範囲に利用者がまとまっていれば効率よく回れますが、利用者が広い範囲に点在していれば、移動時間が長くなります。

介護の仕事は、人と人が向き合う仕事です。しかし、サービスを届けるためには、その前後に必ず移動や調整があります。地域差は、その移動や調整の部分に大きく影響します。

距離が伸びると職員の負担だけでなく事業所の効率にも影響する

移動距離が伸びると、職員の負担が増えます。運転時間が長くなれば、事故リスクへの注意も必要になります。天候が悪い日や道路事情が悪い地域では、さらに負担は大きくなります。

それだけではありません。移動に時間を取られると、事業所としての効率も下がります。職員が送迎や訪問に出ている時間が長くなれば、事業所内で対応できる業務や、他の利用者に関われる時間も限られます。

介護事業所の運営では、人件費が大きな割合を占めます。職員が動いた分だけ自由に料金を上げられるわけではないため、移動負担が増えても、それがそのまま収入に反映されるとは限りません。ここが、一般的な商売とは違うところです。

そのため、地域差は単に「遠いから大変」という話では終わりません。遠い地域にサービスを届けるほど、職員の負担、時間の使い方、採算の取り方が難しくなります。

デイサービスは地域差の影響を受けやすい一例として考えられる

デイサービスは、地域差の影響を考えるうえで分かりやすい例です。デイサービスは在宅で暮らす高齢者が通うサービスであり、多くの場合、事業所が送迎を行います。

利用者が近い範囲に住んでいれば、送迎ルートを組みやすくなります。しかし、利用者が遠方に点在していれば、少人数のために長い距離を送迎する場面も出てきます。これは職員にとっても、事業所にとっても負担になります。

もちろん、これはデイサービスだけの問題ではありません。訪問介護、訪問看護、福祉用具、居宅介護支援など、在宅生活を支えるサービス全体に関わる話です。地域で暮らす高齢者を支える以上、介護サービスは地域の人口構造や生活圏の影響を避けられません。

人材確保と生産性向上は現場では単純な解決策に見えにくい

人材確保は現場に人が増えて初めて効果を感じられる

厚労省資料では、介護人材確保や職場環境改善に向けた生産性向上、経営改善支援も示されています。介護人材の確保は、今後の介護サービスを維持するうえで欠かせない課題です。

ただ、現場で働く職員から見ると、「人材確保に取り組んでいる」と言われても、すぐに助かったとは感じにくいものです。実際に職員が増え、シフトが安定し、休みが取りやすくなり、利用者対応に余裕が出て初めて、現場は効果を感じます。

人材確保は、言葉としては分かりやすいですが、結果が見えるまでには時間がかかります。採用できても定着しなければ意味がありません。未経験者を採用しても、育成する職員に余裕がなければ現場の負担が一時的に増えることもあります。

だからこそ、人材確保は人数だけで見るのではなく、その地域で働き続けられる職場をどう作るかまで含めて考える必要があります。

介護の生産性向上は少ない人数で多くこなす話だけではない

生産性向上という言葉も、介護現場では受け取り方が難しい言葉です。製造業であれば、一人が作れる数を増やす、同じ時間でより多くの商品を作るというイメージがしやすいかもしれません。

しかし、介護はそう単純ではありません。一人の職員が二人分の利用者を安全に見られるようになった、という話だけで考えると危険です。介護では、見守り、声かけ、移動介助、入浴介助、排泄介助、家族対応など、人が関わること自体に意味がある場面が多くあります。

介護における生産性向上は、少ない人数で無理に多く回すことではなく、記録や情報共有、見守り、業務の重複を減らすことで、職員が利用者に向き合う時間を確保することに近いと思います。

今まで手が回らなかった部分に目が届くようになる。事故予防に時間を使えるようになる。利用者の変化に気づきやすくなる。そういう意味での生産性向上であれば、現場にも意味があります。

効率化できる業務と人が関わらないと意味が薄くなる業務がある

テクノロジーの活用は、介護現場でも進んでいくと思います。記録ソフト、見守り機器、情報共有システム、センサーなどは、業務の効率化に役立つ場面があります。特に入所施設では、夜間の見守りや排泄のタイミング把握などで効果が出やすい部分もあります。

一方で、すべての介護業務がテクノロジーで置き換えられるわけではありません。利用者に声をかける、表情を見る、不安を感じ取る、家族の話を聞く、活動に参加しやすい雰囲気を作る。こうした部分は、人が関わるからこそ意味があります。

在宅生活を支えるサービスでは、介護度が高い人を支えるだけでなく、閉じこもりを防ぐ、生活リズムを作る、できることを維持するという役割もあります。ここは単純な効率化だけでは測れません。

生産性向上を考えるなら、効率化できる業務と、人が関わらないと意味が薄くなる業務を分けて考える必要があります。何でも効率化すればよいという話ではなく、効率化によって空いた時間を何に使うのかが大事です。

大規模化や協働化だけでは拾いきれない介護ニーズもある

効率だけで見れば大規模化には大きな意味がある

厚労省資料では、協働化や大規模化の推進による経営基盤の強化も示されています。事業所同士が協力したり、規模を大きくしたりすることで、人材確保や事務負担、備品管理、研修体制などを効率化しやすくなる面があります。

介護保険の財源が限られている中でサービスを維持していくなら、効率化や大規模化に意味があるのは確かです。小さな事業所がそれぞれ別々に人材を集め、備品を買い、研修を行い、事務を抱えるより、ある程度まとまった方が効率は良くなります。

経営の視点で見れば、大規模化には大きなメリットがあります。人員配置の調整もしやすくなり、急な欠勤にも対応しやすくなる場合があります。管理部門をまとめることで、現場が本来の介護業務に集中しやすくなる可能性もあります。

一方で小規模だから支えられる利用者や家族の事情もある

ただし、大規模化だけで介護のすべてが解決するわけではありません。小規模な事業所だからこそ支えられる利用者や家族もいます。

大きな事業所では、送迎ルートやサービス時間、活動内容がある程度決まりやすくなります。多くの利用者に安定したサービスを提供するためには、一定のルールや流れが必要だからです。

一方で、家族の勤務時間が特殊だったり、利用者が大人数の環境になじめなかったり、細かな配慮が必要だったりする場合には、小規模な事業所の柔軟さが助けになることがあります。大規模なサービスでは対応しにくい事情を、小規模な事業所が拾っている場面もあります。

効率だけで見れば不利でも、その地域で困っている人にとっては必要な受け皿になっている。ここを見落としてはいけません。

地域に必要なサービスを残す視点も欠かせない

これからの介護では、効率化とサービス維持の両方を考える必要があります。限られた財源と人材の中で介護サービスを続ける以上、無駄を減らすことは必要です。協働化や大規模化も、現実的な選択肢の一つです。

しかし、効率だけで判断すると、地域にとって必要なサービスまで失われる可能性があります。特に人口減少地域では、採算だけを見れば続けにくいサービスも出てきます。それでも、その事業所がなくなれば困る利用者や家族がいるかもしれません。

介護サービスは、単に利益が出る場所にだけ置けばよいものではありません。地域で暮らす高齢者の生活をどう支えるかという視点が必要です。

だからこそ、地域の実情に応じたサービス提供体制を考えるなら、効率化だけではなく、「その地域にどのサービスを残すべきか」という視点も欠かせません。

2040年に向けて介護事業所は地域の現実を見ていく必要がある

国の方針は介護事業所の運営に大きく影響する

介護事業所の運営は、国や自治体の方針と切り離して考えることができません。介護保険サービスは、制度のルールに沿って提供され、介護報酬の仕組みの中で運営されています。

そのため、基本指針や介護保険事業計画は、現場から遠い話に見えても、実際には事業所運営に大きく影響します。どのサービスを地域に整備するのか、どの課題を重点的に見るのか、人材確保や生産性向上をどのように進めるのかによって、事業所の将来も変わります。

もちろん、国が方針を出したからといって、すべてがその通りに進むわけではありません。地域によって人材も財源も事業所数も違います。だからこそ、計画の言葉だけで安心するのではなく、現場でどう実現できるのかを見る必要があります。

地域差を前提にした介護サービスの維持が問われている

2040年に向けて、介護サービスの需要は地域ごとに変わっていきます。高齢者が増える地域もあれば、人口減少が進み、サービスを維持すること自体が難しくなる地域もあります。

これからは、全国一律の感覚で介護サービスを考えるだけでは足りません。大都市部ではサービス需要の増加や人材確保が課題になり、人口減少地域では移動距離や採算、人材不足がより深刻になる可能性があります。

地域差を前提にすることは必要です。しかし、その結果として、介護サービスを受けやすい地域と受けにくい地域の差が広がらないようにする視点も必要です。

特に在宅生活を支えるサービスは、地域の生活圏と密接に関わっています。サービスが近くにあるか、職員が来られるか、送迎できるか、家族の負担を減らせるか。そうした現実的な部分まで見なければ、地域の介護は成り立ちません。

現場目線では制度の言葉を運営の現実に置き換えて見る必要がある

厚労省資料に出てくる言葉は、制度としては重要です。2040年を見据えた中長期的な推計、地域の実情に応じたサービス提供体制、人材確保、生産性向上、経営改善支援。どれも今後の介護を考えるうえで欠かせない言葉です。

ただ、現場目線で見るなら、それをもう一段具体的に考える必要があります。

地域の実情に応じたサービス提供体制とは、実際には、どの地域でどのサービスを維持できるのかという話です。人材確保とは、求人を出すことではなく、その地域で働き続けられる職場を作れるかという話です。生産性向上とは、職員を減らすことではなく、利用者に向き合う時間をどう確保するかという話です。

2040年に向けた介護の課題は、制度の資料を読んだだけでは見えにくい部分があります。現場では、送迎、訪問、シフト、採算、家族対応、人材定着といった日々の仕事の中に、すでにその課題が表れています。

これからの介護を考えるときに大事なのは、国の方針を否定することではありません。その言葉を、現場や事業所の現実に置き換えて見ることです。地域差が広がる時代に、介護サービスをどう維持するのか。そこを考えなければ、2040年に向けた計画は、現場に届きにくいものになってしまいます。

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