厚労省が描く「介護情報基盤がつくる未来」
介護情報を関係者で共有する新しい仕組み
厚生労働省は、2026年4月から準備が整った自治体で順次始まる介護情報基盤を、「介護情報基盤がつくる未来」として紹介しています。介護保険証の情報や要介護認定、ケアプランなどを集約し、必要な関係者が確認しやすくする仕組みです。
情報管理の効率化からサービスの質向上までを描いている
厚労省は、情報共有の迅速化や負担軽減だけでなく、利用者の主体的なサービス選択や介護サービスの質向上まで示しています。ただし、その未来がどのような流れで実現するのかは、短い説明だけでは分かりにくい部分があります。
情報が一か所に集まり、必要なときに確認できる仕組みは、介護業界に必要です。しかし「スムーズな情報管理」「安心感」「より良いサービスの利用」と並べるだけでは、現場で何が変わるのか、どの仕事が減るのかまでは見えてきません。
特に、自分の情報を確認できることと、自分に合う介護サービスを選べることは同じではありません。情報収集の時間が減ることと、介護職員が利用者に向き合う時間が増えることも、途中の仕組みを示さなければ結びつきません。
介護現場が求めているのは必要な情報がすぐに届く未来
FAX・郵送・電話に頼る情報共有が続いている
介護業界では、現在もFAX、郵送、電話による情報共有が珍しくありません。ケアプランが利用開始の直前に届くこともあれば、郵送が間に合わず、必要な書類がそろわないまま受け入れ準備を進める場合も実際にあります。
情報が届かなければ再送を依頼し、届いた書類を印刷してファイリングし、必要になればその中から探します。介護情報基盤の価値を考えるなら、まず見るべきなのは、こうした受け渡しと確認に時間を使っている現状です。
ケアマネジャーと連絡が取れなければ確認できない
在宅の介護サービスでは、ケアマネジャーが情報の中心になることが多くあります。自治体や利用者から届いた情報がケアマネジャーへ集まり、そこからデイサービス、訪問介護、訪問看護などの関係事業所へ伝えられます。
必要な情報が介護情報基盤に集約されれば、相手の勤務日や時間帯を待たずに確認できるようになります。これは単なる便利さではなく、情報が届かないために仕事が止まる場面を減らせるという、現場にとって大きな変化です。
古い情報や書類の未着・誤送信も起こっている
情報は届けばよいわけではありません。数年前に作られた利用者情報が送られてきた場合、それが現在も有効なのか、古い書類を誤って送ったのか、受け取った事業所には判断できず、再確認が必要になることがあります。
薬、主治医、家族構成、介護度、身体状況などは変わります。紙で保管している事業所では、利用期間が長いほど書類が増え、古い情報と新しい情報が同じファイルに残り、必要な内容を確認するまでに時間がかかります。
介護情報基盤によって「そこを見れば情報がある」状態ができることは重要です。ただし、本当に必要なのは「そこを見れば最新の情報がある」状態です。誰が、いつ、何を更新するのかという運用まで整える必要があります。
介護情報基盤で大きく変わるのは情報伝達の仕組み
曜日や時間帯を問わず必要な情報を確認できる
厚労省は、利用者の資格、要介護認定、給付状況などを介護情報基盤に集約し、必要な情報をタイムリーに確認できるようになるとしています。自治体や利用者家族への問い合わせを減らせることも期待されており、現場の確認作業を減らす狙いがあります。
必要な権限を持つ事業所がデジタル上で確認できれば、「書類がまだ届いていない」「担当者が休みで聞けない」という理由で情報が止まる場面は減ります。介護情報基盤の現実的で分かりやすい効果は、まずここにあります。
定型的な問い合わせが減りケアマネジャーの負担も軽くなる
介護情報基盤ができても、ケアマネジャーの役割がなくなるわけではありません。ケアマネジャーは利用者の相談を受け、心身の状態に応じたケアプランを作り、市町村や各サービス事業所との連絡調整まで担う存在です。
ケアマネジャーは情報の伝言だけをするために存在しているわけではありません。定型的な問い合わせが減れば、利用者の状態を考え、サービスを調整し、ケアプランを見直す仕事に使える時間が増える可能性があります。
医療と介護、事業所同士の連携にも広げられる
介護情報基盤の意味は、紙をデータに置き換えることだけではありません。デイサービス、訪問介護、訪問看護、医療機関などが持つ情報が必要な範囲でつながれば、一つの事業所だけでは分からない変化を捉えやすくなります。
新しい事業所を利用するときも、本人や家族が一からすべて説明するのではなく、これまでの支援内容や変化を確認できれば、継続した支援につながります。介護情報基盤に期待したいのは、保管場所の変更より情報連携です。
厚労省が描く未来には説明が足りない部分もある
「自分に合うサービスを主体的に選べる」までの道筋が見えない
厚労省は、利用者が自身の情報を取得することで、主体的にサービスを選択できるようになると説明しています。また、介護情報基盤の情報を活用することで、本人に合うサービスや適切なケアプランにつながるとしています。
介護保険サービスは、本人が興味を持ったものを自由に使う仕組みではありません。心身の状態、生活上の課題、本人と家族の希望などを踏まえ、利用する必要性を整理したうえでケアプランに位置づける必要があります。
将来的に、サービスの内容や特色、利用条件なども含めて判断を支える仕組みが整うのであれば、主体的な選択につながる可能性はあります。しかし、今回のページだけでは、現在の制度からそこへ至る道筋は読み取れません。
「安心感」と「介護サービスの質向上」が何を指すのか分かりにくい
また、厚労省は「安心感」や「介護サービスの質向上」も示していますが、何に対する安心なのか、どの業務が減って誰のケア時間が増えるのかは、具体的に説明されていません。これらの言葉だけでは、現場への効果を判断できません。
情報確認が早くなれば、対応の遅れや確認漏れを減らせる可能性はあります。ただし、それだけで介護サービス全体の質が上がるとは言い切れません。情報連携の改善と、現場の介護そのものの改善は分けて考える必要があります。
介護情報基盤が本当に未来を変えるために必要なこと
紙やFAXを残したまま新しい作業を増やさない
新しい仕組みを導入しても、従来どおり紙を作り、FAXを送り、別のシステムにも同じ情報を入力するのであれば、負担は減りません。介護情報基盤への入力だけが追加されれば、現場には新しい仕事が一つ増えただけになります。
重要なのは、介護情報基盤が既存の作業に加わるのではなく、これまでの作業と置き換わることです。導入直後の並行運用が長く続けば形だけのDXとなり、現場は新旧両方の作業をいつまでも抱え続けることになります。
情報の更新・接続・運用を事業所任せにしない
情報基盤は、入力された内容が正しく、更新されて初めて役に立ちます。古い情報が残り続ければ、紙のファイルがデジタルに変わっただけです。誰が入力し、誰が確認し、どの時点で更新するのかを決める必要があります。
一部の事業所だけが使いこなせる仕組みになれば、情報がつながる事業所とつながらない事業所が生まれます。業界全体の基盤にするなら、導入や運用を個々の事業所の対応力だけに任せない継続的な支援体制が必要です。
まずは必要な情報が必要なときに届く未来を実現する
介護情報基盤だけで、介護業界の人手不足が解消するわけではありません。情報確認が早くなっても、介護職員が増えたり、一人の利用者にかける時間が大幅に増えたりするわけではなく、直接的な人員対策とは別に考える必要があります。
それでも、必要な情報が届かない、担当者が休みで確認できない、FAXが届いたか分からない、古い書類の中から探さなくてはいけないという状態を変える意味は大きく、現場の判断や準備を進めやすくする効果があります。
その土台ができて初めて、より良いケアプランやサービスの質について具体的に考えられます。介護情報基盤の評価は、掲げられた未来の大きさではなく、現場の情報連携と日々の業務をどこまで変えられるかで見るべきです。
