厚生労働省のWebマガジンで連載されている「介護DX」。第1回では介護情報基盤の仕組み、第2回では利用者や現場に生まれる変化が紹介され、第3回となる今回は、介護事業所や医療機関が利用を始めるための支援が取り上げられました。
介護情報基盤という言葉を聞いたことはあっても、実際に何が変わるのか、いつ自分たちの事業所に関係してくるのかまでは分かりにくいと思います。制度上は2026年度から動き始めていますが、全国の介護事業所が同じ日から同じ使い方をするわけではありません。
今回は、介護情報基盤が目指している情報共有と現在の導入状況を確認した上で、この仕組みが現場の負担軽減につながるためには何が必要なのかを考えます。
介護情報基盤で何が変わろうとしているのか
介護情報基盤は、市町村が持つ介護保険の情報や、介護事業所、医療機関などが扱う情報を電子的に共有するための基盤です。利用者本人も含め、介護に関わる人たちが必要な情報を確認できる仕組みとして整備が進められています。
介護事業所はWEBサービスから情報を確認する
介護事業所では、インターネットに接続した端末から「介護保険資格確認等WEBサービス」を利用し、介護保険被保険者証の情報や要介護認定に関する情報などを参照できるようになります。
利用するためには、認証に使うクライアント証明書や端末環境の設定が必要です。新しい介護ソフトを一つ導入するというより、介護に関する情報を共有する基盤へ、WEBサービスを通して接続する形になります。
ケアプランの連携も同じ基盤へまとまっていく
現在使われているケアプランデータ連携システムも、2026年度下期に介護情報基盤との統合が予定されています。このシステムは、居宅介護支援事業所と居宅サービス事業所の間でやり取りするケアプラン情報の一部を、データで連携する仕組みです。
資格や認定に関する情報と、ケアプランのやり取りが一つの基盤へまとまっていけば、電話、ファックス、紙、個別のシステムに分かれていた確認作業を減らせる可能性があります。介護情報基盤が目指しているのは、必要な情報を必要な場面で共有できる状態だと考えられます。
2026年度の開始は全国一斉ではない
介護情報基盤は制度上すでに開始時期へ入っています。ただし、自分たちの地域でいつ利用できるかは、市町村の準備状況によって異なります。
2028年4月まで市町村ごとに利用が始まる
厚生労働省が示している予定では、2026年4月1日以降、準備が完了した市町村から順次、介護情報基盤へのデータ移行と情報共有が始まります。全国の市町村が同じ日に切り替わる仕組みではありません。
全市町村での活用開始は、2028年4月1日までを目標としています。市町村ごとの予定は介護情報基盤ポータルで公開されているため、全国のスケジュールより、自分たちが関わる市町村の状況を確認する方が実際の準備につながります。
機器と接続を支える2026年度の助成
厚生労働省の「介護DX」第3回で中心となっているのが、事業所や医療機関の導入を支える助成です。介護事業所では、マイナンバーカードによる本人確認に使うカードリーダーの購入費や、介護保険資格確認等WEBサービスへ接続するためのサポート費が、上限の範囲内で対象になります。
介護情報基盤とケアプランデータ連携システムの接続サポートを一体的に受ける場合は、ケアプランデータ連携システム側の費用も対象です。機器を購入する費用だけでなく、接続を始めるところまで支援の対象に含まれています。
導入時の費用を抑えられることは事業所にとって助けになります。一方、市町村や連携先の開始時期が異なる以上、自分たちの接続準備が終わった日から、すべての情報連携が新しい方法へ切り替わるわけではありません。
ケアマネジャーを経由して情報が届いてきた現実
介護情報基盤の価値を考えるには、これまで介護に関する情報がどのように事業所へ届いていたのかを見る必要があります。ここでいう情報の経由は、ケアマネジャーを単なる伝達係として捉えるものではありません。
サービス事業所へ情報が届くまで
在宅で介護サービスを利用する方の情報は、ケアマネジャーを通して各サービス事業所へ伝わることが多くありました。新しくサービスを利用する方の情報、要介護認定の更新や区分変更の結果などを、ケアマネジャーから聞いた経験のある人は多いと思います。
ケアマネジャーは、利用者の状況や希望を確認し、必要なサービスを組み合わせてケアマネジメントを行います。その中で関係する事業所をつないでいるため、実務では多くの情報もケアマネジャーを経由していました。
しかし、利用者の生活と介護サービスは、居宅介護支援事業所の営業時間だけ動いているわけではありません。事業所が休みの日や、担当のケアマネジャーへすぐに連絡できない時間にも、確認したい情報が出てくることはあります。
必要な時に確認するには情報の更新が欠かせない
介護情報基盤に必要な情報が集まり、適切に更新されていれば、サービス事業所はケアマネジャーから連絡が来るのを待たずに情報を確認できます。必要な時に情報へたどり着けることは、電話やファックスの回数が減ることとは別の意味を持ちます。
ケアマネジャーにとっても、同じ情報をそれぞれの事業所へ伝える作業が減る可能性があります。僕は、事業所側が必要な情報を必要な時に確認できることに、介護情報基盤の分かりやすい価値があると思っています。
ただし、情報が古いままなら、確認できる場所が増えても判断には使えません。誰が、どの情報を、どの時点で更新するのかまで機能して、初めて便利な情報基盤になります。
移行期は新旧二つの連携方法が残る
市町村ごとに利用開始時期が異なることは、事業所の仕事にも直接影響します。一つの事業所の中で、新しい方法と従来の方法を使い分ける時期が生まれるためです。
複数の市町村に関わる事業所では対応が分かれる
介護事業所の中には、複数の市町村に住む利用者へサービスを提供しているところがあります。市外の居宅介護支援事業所と連携し、市町村の境をまたいで情報をやり取りすることも珍しくありません。
一方の市町村では介護情報基盤の利用が始まり、もう一方では準備中という時期があれば、介護情報基盤を使える利用者と、従来の方法で確認する利用者が同時に存在します。事業所は、相手に合わせて両方の方法へ対応することになります。
厚生労働省の自治体向け説明資料でも、介護情報基盤を利用しない事業所や医療機関との連携については、現在の方法を続ける想定が示されています。電話、ファックス、紙、既存の介護ソフトを使った方法が、すぐにすべてなくなるわけではありません。
負担軽減の前に仕事が重なる期間がある
新しい仕組みが定着した後には、確認や連絡の作業が減ることを期待できます。ただ、移行中は新しい方法を覚えながら従来の方法も残るため、一時的には仕事が重なります。
どの程度の期間になるかは、事業所が関わる市町村や連携先によって変わります。すべての事業所で同じ期間続くとは言えませんが、導入直後から事務負担が減ることだけを想定していると、実際の仕事量とのずれが生まれます。
これは介護情報基盤が不要だという話ではありません。最終的に期待される負担軽減と、そこへ移るまでの負担は分けて考える必要があるということです。
導入準備の負担は誰が担うのか
国の支援によって機器や接続の費用を抑えられても、事業所の中で行う仕事がなくなるわけではありません。制度を実際に動かすには、その仕事を担う人が必要です。
申請、設定、職員教育は一人へ集まりやすい
利用開始までには、制度についての情報収集、助成の申請、端末やクライアント証明書の設定、職員への説明などがあります。開始後も、問い合わせへの対応や日常的な管理が続きます。
一つひとつは別の作業ですが、事業所の中では、介護情報基盤の担当になった人へ集まりやすい仕事です。事業所全体では効率化へ向かっていても、導入を担当する一人だけを見れば、しばらく負担が増えることも考えられます。
法人の大きさより担当者が動ける体制を見る
誰が担当するかは、単純に法人や事業所の大きさだけでは決まりません。介護以外の事業も行う会社で、本部の事務職員が対応できる場合もあります。複数の介護事業所を運営していても、本部に制度対応をまとめる人がいなければ、各事業所の管理者がそれぞれ調べることになるかもしれません。
一つの事業所を運営する法人では、代表者や管理者が通常業務と兼ねることも考えられます。僕はこれまで、利用できる助成制度があっても、調べて申請するところまで手が回らず、申請を見送った事業所も見てきました。
担当者の名前だけを決め、これまでの仕事を何も減らさずに新しい業務を上乗せすれば、準備は進みにくくなります。専任者を置けない場合でも、誰が情報を集め、誰が法人内の判断をするのか、その仕事に使う時間をどう確保するのかは決めておく必要があります。
機器や接続への助成は、導入の入り口を支えるものです。事業所で運用できる状態にするには、担当する人が実際に動ける体制まで含めて考えなければなりません。
DXで生まれた時間を何に使うのか
厚生労働省は、介護情報基盤による情報共有や手続きの効率化が、現場の負担軽減とサービスの向上につながることを期待しています。この二つが実際にどう表れるかは、現在の職場環境によって変わります。
まず無理な働き方を正常な状態へ戻す
介護事業所の中には、現在の仕事を職員の無理によって何とか回しているところもあります。残業が続いている、休憩を十分に取れない、職員が足りないまま勤務を組んでいる。そのような事業所で事務作業が減っても、空いた時間をすぐ別の仕事で埋めれば、職員の働き方は変わりません。
利用者へのケアを良くすることは、介護サービスを提供する事業所にとって大切です。僕も、効率化によって生まれた余裕を利用者へ向けられるなら、それが望ましいと思っています。
それでも、無理な働き方をしている事業所では、まず残業を減らし、休める状態を作ることが先になる場合があります。働く環境を正常な状態へ戻した上で、さらに余裕が生まれれば、利用者と向き合う時間やサービスの質へつなげていく。この順番を飛ばしてはいけないと思います。
サービス向上へつながるかは経営判断で変わる
事務作業が減った分だけ新しい職員を採用しないという判断をすれば、事業所の忙しさは変わらない可能性があります。反対に、職員の時間と気持ちに余裕を持たせれば、利用者への対応を見直すこともできます。
介護情報基盤が現場へどのような効果をもたらすかは、システムの機能だけでは決まりません。経営側が、生まれた時間を人件費の削減、働き方の改善、サービスの向上のどこへ向けるのかによっても変わります。
介護情報基盤は導入後の使われ方で評価する
介護に関する情報がまとまり、必要な人が必要な時に確認できる方向へ進むこと自体には意味があります。僕は、介護情報基盤はこれからの介護に必要な仕組みだと考えています。
接続した事業所の数だけでは効果は分からない
一方で、助成金の申請件数や、介護情報基盤へ接続した事業所数だけでは、この仕組みが成功したかどうかまでは分かりません。導入したことと、現場で役立っていることは同じではないからです。
情報が更新され、必要な時に利用され、利用者や家族に余計な負担を生まず、職員やケアマネジャーの仕事が整理されているか。そこまで見て初めて、介護情報基盤を導入した効果を判断できます。
全国の市町村で活用が始まる目標は2028年4月です。開始時期が異なる以上、最初の一年だけで現場が大きく変わるとは考えにくく、評価には時間が必要です。
今確認するのは市町村の開始時期と担当体制
今の段階で、制度の細部まですべて覚えておく必要はありません。まず、自分たちが関わる市町村がいつ利用を始めるのかを確認する。それによって、準備を急ぐべきなのか、情報を追いながら待てるのかが変わります。
次に、法人や事業所の中で誰が情報を追い、準備を進めるのかを考えておく。その人が動く時間まで決めておけば、必要な機器や助成の申請時期も、自分たちの状況に合わせて判断しやすくなります。
介護情報基盤は、これから介護の仕事の進め方へ入ってくる仕組みです。まだ分からない部分があるからこそ、制度の動きを見失わず、実際に使い始めるときに無理が集中しない準備をしておくことが、事業所にとって現実的な向き合い方だと思います。
