デイサービス倒産が増えている背景とは?人手不足と人件費から現場目線で考える【介護職人が解説】

介護職人ラボ08061202
目次

デイサービス倒産のニュースをどう受け止めるか

東京商工リサーチのデータを前提として見る

東京商工リサーチのTSRデータインサイトでは、2026年1月から5月までの「デイサービス事業者」の倒産が27件となり、2000年以降の上半期として過去最多だった件数をすでに上回ったことが取り上げられています。

この記事で扱うのは、東京商工リサーチが公表している「通所・短期入所介護事業」の倒産データです。対象は負債1,000万円以上の倒産であり、すべてのデイサービスの廃止や休止を表しているわけではありません。

出典:東京商工リサーチ TSRデータインサイト「1-5月の『デイサービス』倒産27件、上半期最多を更新 サービス多様化のなか、コスト上昇と人手不足が負担に」
URL:https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1202949_1527.html

数字だけでデイサービス全体を悲観しすぎない

倒産という言葉を見ると、どうしても暗い印象になります。

これからデイサービスで働こうとしている人であれば、「デイサービスはこれから危ないのか」と不安になるかもしれません。すでに働いている人であれば、「自分の職場は大丈夫なのか」と感じる人もいると思います。

ただ、倒産件数だけを見て、デイサービス全体が悪い方向に向かっていると考えるのは少し早いです。デイサービスは今も地域の高齢者や家族を支えている大切なサービスです。

一方で、必要とされているから必ず経営が安定する、という単純な話でもありません。介護保険サービスは、事業所が自由に料金を上げられる仕事ではないからです。

決められた介護報酬の中で、人件費、送迎費、食費、光熱費、設備維持費などをまかなっていく必要があります。ここに、今のデイサービス経営の難しさがあります。

デイサービス経営で重くなる人手不足と人件費

人件費は削るものではなく、確保するもの

デイサービスの経営を考えるとき、人件費は大きな負担になります。

ただし、人件費を単純に「削るべき経費」として見るのは危険です。介護サービスは、職員がいなければ成り立ちません。

送迎、入浴介助、食事介助、排泄介助、レクリエーション、記録、家族対応、ケアマネジャーとの連携。どれも人が動いて初めて提供できるものです。

つまり、デイサービスにおける人件費は、サービスを続けるために確保しなければならないものです。

人件費の上昇は事業所に重くのしかかる

東京商工リサーチの記事では、倒産した27件のうち「人手不足」倒産が8件あり、その中には人件費高騰を理由とするものが含まれているとされています。

人手不足だから採用したい。しかし、人を採用するには賃金を見直す必要がある。賃金を上げれば経営を圧迫する。けれども、賃金を上げなければ人が集まりにくい。

この流れは、多くのデイサービス事業所にとって大きな課題だと思います。

特にデイサービスは、夜勤がない分、入所施設と比べて給与が低く見られやすい面があります。日勤中心で働きやすいというメリットはありますが、生活していくうえで給与はやはり大切です。

待遇面の厳しさは職員の流出にもつながる

介護職員がより待遇のよい職場へ移ることは、自然なことです。

同じ介護の仕事でも、訪問介護、特別養護老人ホーム、老健、有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅など、働く場所によって給与も働き方も違います。

その中で、デイサービスが人材を確保し続けるには、「日勤だから働きやすい」だけでは足りなくなってきているのかもしれません。

やりがいだけで仕事を続けることはできません。けれども、報酬だけで仕事を選んでいるわけでもありません。デイサービスの現場には、その間で踏ん張っている職員がたくさんいます。

小規模デイサービスが苦しくなりやすい理由

デイサービスには売上の上限がある

デイサービスには定員があります。

一日に受け入れられる利用者数が決まっているため、どれだけ頑張っても売上には上限があります。

一般的な商売であれば、価格を上げたり、販売数を増やしたりして売上を伸ばす方法があります。しかし、介護保険サービスでは、事業所が自由に料金を上げることはできません。

利用者を増やしたくても、定員を超えて受け入れることもできません。ここがデイサービス経営の難しいところです。

支出が増えても売上を増やしにくい

燃料代が上がっても、送迎をやめるわけにはいきません。

水道光熱費が上がっても、入浴や冷暖房を削るわけにはいきません。人件費が上がっても、必要な職員数を大きく減らせば、サービスの質や安全に関わります。

支出は増えるのに、売上を増やす余地は限られている。

この構造は、特に小規模なデイサービスほど重くなりやすいです。

もちろん、小規模デイサービスには良さもあります。利用者との距離が近いこと、家庭的な雰囲気を作りやすいこと、職員が利用者一人ひとりを把握しやすいこと。大規模な事業所にはない魅力があります。

利用者が減ったときの影響が大きい

小規模なデイサービスでは、利用者が数人減るだけでも稼働率に大きく影響します。

デイサービスは、今日空いているから気軽に来るというサービスではありません。ケアプランに基づいて利用日が決まり、契約や担当者会議などを経て利用が始まります。

そのため、利用者が入院したり、施設入所したり、体調不良で利用を休んだりしても、その空いた枠がすぐに埋まるとは限りません。

一つの事業所だけで運営している法人であれば、その影響はさらに大きくなります。複数の事業所を持つ法人と比べると、一つの事業所の稼働率低下が法人全体に響きやすいからです。

職員一人の退職も大きな問題になる

職員数が少ない事業所では、一人の退職が大きな影響を持ちます。

送迎に出る職員、入浴を担当する職員、フロアを見守る職員、記録をする職員。デイサービスの仕事は、利用者が帰るまでずっと人の配置が必要です。

職員が一人欠けただけで、現場が急に回りにくくなることもあります。

東京商工リサーチの記事では、倒産した事業者のうち従業員数10人未満が25件とされています。この数字だけで小規模事業所を一括りにはできませんが、小規模な運営ほど、人員や稼働率の変化に弱くなりやすいことは考えられます。

デイサービスの多様化を現場目線で見る

選択肢が増えることには意味がある

近年のデイサービスは、かなり多様化しています。

以前からある長時間型のデイサービスだけでなく、機能訓練を重視したデイサービス、短時間型のデイサービス、入浴を中心にしたデイサービス、認知症対応型のデイサービスなど、地域によってさまざまな形があります。

利用者や家族にとって、選択肢が増えること自体は良いことです。

体を動かしたい人もいれば、入浴を目的に通いたい人もいます。長時間家族の介護負担を軽くしたい家庭もあれば、短時間だけ外に出るきっかけがほしい人もいます。

多様化には事業所側の事情もある

一方で、現場や運営側から見ると、デイサービスの多様化には別の面もあります。

機能訓練型にすることや、専門職を配置することは、利用者へのサービス向上につながります。同時に、加算の取得にも関係します。

加算とは、一定の体制やサービスを整えた事業所が、通常の介護報酬に上乗せして算定できる報酬のことです。

介護報酬が決まっている中で、事業所が収益を確保するためには、加算をきちんと取ることも重要になります。

良いサービスと収益確保はどちらも必要

事業所は良いサービスを作りたいと思っています。

しかし同時に、事業を続けていくためには収益も必要です。職員の待遇を良くするにも、設備を整えるにも、送迎車を維持するにも、お金がかかります。

機能訓練や重度化防止の取り組みは、利用者にとって意味のあるものです。一方で、事業所側には加算や収益確保の視点もあります。

この両方を見ておかないと、デイサービスの多様化を正しく受け止めにくいと思います。

預かり型のデイサービスにも大切な役割がある

デイサービスの話になると、「ただ預かるだけではいけない」という言い方をされることがあります。

もちろん、利用者に何も働きかけず、ただ時間を過ごしてもらうだけでよいという意味ではありません。体を動かす機会を作ること、会話をすること、入浴や食事を支えること、生活リズムを整えることは大切です。

ただ、「預かる」という言葉を軽く見すぎるのも違うと思います。

デイサービスがあることで、家族は仕事に行けます。買い物に行けます。休む時間を持てます。介護を一人で抱え込まなくて済みます。

家族を支えることもデイサービスの価値

高齢の親や家族を自宅で支えている人にとって、日中に安心して過ごせる場所があることは、とても大きな支えです。

利用者本人への支援だけでなく、家族の生活を守ることもデイサービスの大切な役割です。

機能訓練型のデイサービスにも価値があります。重度化防止の取り組みにも意味があります。しかし、長時間安心して過ごせるデイサービスにも、同じように大きな価値があります。

ここは、現場で働いている人ほど実感しやすい部分ではないでしょうか。

現場から見える危ないサインは人手不足に出やすい

現場が一番感じやすいのは人手不足

現場の職員から見て、事業所の危なさを一番感じやすいのは、やはり人手不足だと思います。

お金の流れは、現場には見えにくいです。会社の資金繰りがどうなっているのか、利益がどのくらい出ているのかは、現場職員には分からないことも多いです。

しかし、人が足りないことはすぐに分かります。

送迎に出る人がいない。入浴担当が足りない。フロアを見守る人が足りない。記録を書く時間がない。休憩が取れない。

こうした状態は、現場の職員が日々感じやすい部分です。

あと一人辞めたら回らない職場は負担が大きい

一時的に忙しいだけなら、現場は何とか踏ん張れます。

しかし、慢性的な人手不足が続くと、「このまま続けられるのか」という不安が出てきます。

特に、あと一人辞めたら現場が回らないという状態は危険です。

これは倒産と直接結びつくとは限りません。ただ、事業所の継続にとって大きな不安材料であることは間違いありません。人がいなければ、サービスを提供できないからです。

お金の厳しさは職員には見えにくい

経営面の苦しさは、現場からは見えにくいものです。

もちろん、給与の支払いが遅れる、未払いがある、必要な備品が明らかに買えないといった状態であれば、職員も危険を感じます。

しかし、そこまで表に出る前の段階では、職員が会社の状態を正確に判断するのは難しいです。

現場に還元されていないからといって、必ずしも会社にお金がないとは限りません。逆に、表面上は普通に運営しているように見えても、実際には資金繰りが厳しい場合もあるかもしれません。

だからこそ、現場から見えるサインとしては、人手不足の方が分かりやすいのです。

厳しい時代でもデイサービスを支えている職員がいる

規模や資金力は大切になっていく

これからのデイサービスは、規模や資金力が大切になっていくと思います。

複数の事業所を持つ法人や、経営基盤のしっかりした法人は、採用、教育、設備投資、事務体制などで有利な面があります。

急な利用者減少や職員不足が起きたときにも、他の事業所との連携で乗り切れる可能性があります。

厚生労働省も、介護分野の協働化・大規模化に関する情報を公表しています。これは、小規模事業所を否定するものではなく、介護サービスを地域で継続していくために、事業所同士の連携や経営改善が重要になっている流れとして受け止めるのが自然だと思います。

出典:厚生労働省「介護分野の協働化・大規模化」
URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/kaigo-kyoudouka.html

規模が大きいだけで良いデイサービスにはならない

規模や資金力は大切です。

ただ、規模が大きいだけで良いデイサービスになるわけではありません。

利用者や家族が見ているのは、最終的には現場です。送迎に来る職員の対応、入浴での声かけ、フロアでの雰囲気、管理者や相談員の対応、急な相談をしたときの受け止め方。

そうした一つひとつが、デイサービスへの信頼につながります。

小規模でも、職員同士の関係がよく、利用者を丁寧に見ていて、家族への連絡もきちんとしている事業所はあります。

最後に利用者と家族を支えているのは現場の職員

倒産のニュースを見ると、どうしても経営の話に目が向きます。

人件費が上がっている。燃料代や光熱費が重い。小規模事業所が苦しい。人手不足が深刻になっている。どれも重要な話です。

しかし、その中でも毎日現場に立っている職員がいます。

朝、利用者を迎えに行く職員がいます。入浴を支える職員がいます。食事の様子を見守る職員がいます。レクリエーションで場を作る職員がいます。家族にその日の様子を伝える職員がいます。

デイサービスは、制度だけで動いているわけではありません。建物だけで成り立っているわけでもありません。最後は、利用者と家族に向き合う職員の力で支えられています。

職員の頑張りだけに頼ってはいけない

もちろん、職員の頑張りだけに頼ってはいけません。

やりがいがある仕事だからこそ、それに見合う待遇や働きやすさが必要です。人手不足を現場の努力だけで埋めるような運営は、長く続きません。

職員が安心して働き続けられる環境を作ることが、これからのデイサービスにはますます大切になります。

倒産件数の増加というニュースは、確かに厳しい現実を示しています。

ただ、その厳しさだけで終わらせるのではなく、デイサービスがなぜ必要とされているのか、そしてそのサービスを誰が支えているのかにも目を向ける必要があります。

人手不足や人件費の問題を考えるときも、経営の厳しさを考えるときも、その中心にいる職員の価値を見落としてはいけないと思います。

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